第三十五話 銀の女神

3/6
131人が本棚に入れています
本棚に追加
/223ページ
 その勢いさえ殺せてしまえば、普段のひとりひとりは決して暴力的な人格ではないのだから。  だから、権力に楯突くと、苦痛がもたらされる……と思わせなければならない。  同時に、権力に従うなら救いがもたらされるとも。希望を与えるのだ。  もしも暴動によって、男爵家が隠し蓄えた麦を解放されてしまったら、それが一時的な結果であっても、民主は「武器を手にして血を流すことが唯一の道」だと思い込んでしまうだろう。  けれど、実際には破滅への道だ。  圧倒的な武力と財力をもとに、権力者は暴動を主導した者だけでなく、関わった全てを断罪する。  だから、どうか間に合ってほしかった。  わたしは掲げられた旗を仰ぎ見る。  ーーまさか、こんな形で「太陽王」の残虐さと恐怖を利用するとは思いもしなかったけれど。  今の国王……エドワードの祖父王は国内外を制圧するため、一切の手心を加えずに武力で制圧した。  子供たちは知らないかもしれないけれど、貴族や親になる世代はその凄惨な行動を直接に間接に見聞きしている。  この旗を見せただけで、彼らの脳裏には、抵抗が死に直結するイメージが浮かんだことだろう。  すでに城の正門とわたしたち公爵家の一段に前後を挟まれた民主は、さきほどまでの勢いを失いつつあった。  わたしは息を吸い込んだ。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!