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「なのに俺に殺される前に、勝手に一人でどっか行こうとしてんじゃねぇよ……!」
「……っごめ、なさっ……」
きみはいつか僕を手にかけて、僕はきみの綺麗な手を汚させてしまうんだろうか。
でもそれを想像したら、僕は心底幸せだと思った。きみが僕と同じくらい汚れることが……
――本当にごめんなさい。
呆れるほど最低な奴で、ごめんなさい……。
「――俺に、お前を殺させるなよ」
「え……?」
「ずっと俺と一緒に居れば、お前が俺に殺されることはねえんだよ! だから……約束しろ。もう二度と俺から離れねぇって……お前が俺の前から消えて、勝手にどこかで野垂れ死ぬのなんか、俺は絶対に許さねぇぞ!」
「……!」
写楽……僕が1人でいなくなろうとしてたことに気付いてたの?
僕を抱きしめる写楽の腕の力が強くなった。
「独りは、嫌なんだろ……」
「……いやだ……」
「お前の世界には俺しかいねぇんだって言ってただろ……」
「言った……」
「俺のことを、愛してるって……っ」
少しだけ写楽の声の調子がおかしくて、僕は顔を上げて彼の顔を見た。
そこには、初めて見る彼の泣き顔があった。
「写楽……!?」
なんで……もしかして僕が、きみを泣かせてるの……?
「俺は、俺にもお前しかいねぇんだって言ったじゃねぇか……」
「言っ……てた……」
「じゃあ俺を独りにするんじゃねぇよ、馬鹿野郎!」
……………!!
そっか……僕達はお互いに、世界にたった1人しかいない。
大好きな人達はいるけれど、愛してるのは……お互いの心の中にいるのは………
「写楽……ごめんね」
僕は彼の頬に両手をあてて、綺麗な彼の涙を不器用な手つきで拭った。
顔にかかる彼の息が熱い。とっても……熱い。
「はぁっ……なんで俺泣いてんだ……くそっ」
「ごめんね、愛してるよ」
「……俺だって……お前のこと、愛してるよ」
さらりと言ってくれたけど、それはきみが初めて僕に言ってくれた言葉だった。
「遊、お前を愛してる。だから死ぬな。独りでいなくなろうとすんな」
「……っ……写楽……」
嬉しくて嬉しくて、脳が蕩けて心臓がはち切れそうだ。きみは僕に殺させるなって言ったくせに、自ら殺しにかかってるじゃないか。
幸せすぎて、死んでしまいそうだ。
「馬鹿、死なねぇよ」
「あれ? 僕、声に出してた?」
僕は思わず自分の口を手で抑えた。
「お前の考えてることくらい、分かる」
「さすが……」
「俺を誰だと思ってんだ」
きみは、僕の……
「ご主人様」
「違う」
「え?」
「恋人……だろ?」
「……っ」
「もう恋人は嫌だっていうの、無しだからな」
ああもう、本当にきみは……
「僕……写楽の恋人になっても、いいの?」
また僕は泣いてるみたいで今度は写楽が僕の涙を拭ってくれている。
「俺がなれっつってんだから別にいいだろ」
「僕、親いないし、一般庶民だよ? それに頭も悪いし……」
「親は梅月先生がいるだろうが。それに俺だって立派な一般庶民だっつうの。勉強くらい俺が見てやるし」
「僕、いいとこないのに……」
「お前、俺の胃袋掴んでんの忘れたのかよ?」
「……っ」
そんな……たったそんなことで?
「僕……」
「お前がいいんだよ。他の誰がなんと言おうと、俺はお前がいいんだ」
なんだかもう、何も言葉にならなかった。
僕が大声で泣き出しそうになったのを察したのか、写楽は僕の口を自分の口で塞いだ。
その後僕が再び寝付くまで、何度も角度を変えながら……ずっと、
ずっと……。
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