あの日、君と見た夕暮れに

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──翌日、地元を出る前に自転車を飛ばして、街のはずれに向かった。 相変わらず色も塗り替えられずに塗装がはげ落ちたままの鳥居の前に着いて、自転車を降りる。 昔と同じ場所にある大きな石に近寄って見やると、かつて刻んだ文字がまだ消えずに残っていた。 『……涙の零れ落ちる速さって、あるのかな?』 あの日の彼女の問いかけが、不意をついて思い起こされる。 暮れていく空に、「速さなんて、あるわけないだろう……」と、ぽつりと呟く。 「涙は、零れる速さになんて関係なく、勝手に流れるんだ」 そう勝手に……僕は十円玉を財布から取り出し、二人の名前が見えなくなるまでギザギザに削ると、 夕映えのする茜空へと、硬貨を放り投げた──。 投げられた銅貨が、夕陽に反射して赤銅色に鈍く光り、放物線を描いて落ちていく。 何も知らないで、淡い恋心を(いだ)いていただけのあの頃に、 もう二度とは戻れやしないことがわかると、涙は零れる速さなど考える余裕すらなく、止めどなく溢れた……。 終
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