都合

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   ◇  事件の一報を受けた警察官は駆け付けるなり、室内の惨状に目を覆った。  現場となったのは2LDKのよくあるアパートの一室で、玄関先には内縁の夫とみられる男が、奥のリビングには妻と、その元夫の遺体が見つかった。  唯一無事だったのは、一緒に住む中学三年生の息子一人だけだった。事件後、健気にも三人を介抱しようとしたという彼は、その献身ぶりを物語るように、全身が真っ赤な血に染まっていた。 「今日は、一年に一度だけ父と会える日だったんです。母が約束を破ったから、父が急に家まで乗り込んできて、それで……」  母をかばう内縁の夫と元父の間でもみ合いになり、止めに入った母も巻き込む形で血で血を洗う惨劇へと発展。最終的に生き残った妻も自死を遂げたのだと、少年は言った。 「そうか、それは大変だったね」 「本当なら、特別な一日になるはずだったんですけど……」 「うん、うん。残念だったね。苦しかったね。大丈夫。今は辛いだろうけど、いつかきっと報われる日も来るはずだから、気を強く持つんだよ」  事情を聴いた警察官は、悲痛な表情の少年を見て涙ぐんだ。 「はい」  聡明そうな少年もまた、悲し気にまつ毛を震わせた。 <了>
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