1. 教科書からの使者

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 「おい、なんでcosを微分した結果がただのsinなんだよ。マイナス付くだろ」 「あ、あぁー、そっかそっか」 「じゃあtanの微分はなんだよ?」 吉良は口を閉じて首を傾げた。 「中間考査で出した部分じゃねぇかよ。1/cos^2に決まってんだろ。三角関数の微分は全部覚えとけって東栄が言ったじゃねぇか!」 きょーかしょせんせーは吉良を見上げながら、上から目線で教える。せんせーはペン立てからシャーペンを取り出し、抱き抱えてノートに向かって書き出した。 「基本はこれら三つだ。この三つの公式、どうやって導出するか覚えてるか?」 「あー、えーっと……ま、まぁ、とりあえず公式覚えればそれでいいんだよね?」 苦笑いをしながら頬を人差し指で掻く吉良に、せんせーは静かに言い放つ。 「意味も分からず公式を使うのが一番危険だってこと、分かってねぇのか?」 「え、だってさっき『全部覚えとけ』って言ってたじゃん」 「闇雲に覚えろ、って意味じゃねぇ。公式は導出を理解して使うものだ。理解した上で、限りある時間内に問題を解くために覚える。目先のテストで点を取れればいいから、公式はとりあえず頭に突っ込む、って考えじゃダメなんだよ」 「えぇー……」 (成績上げるって言ってたじゃん) せんせーの発言の矛盾に吉良は言葉を失う。せんせーは吉良を見上げた。 「まぁ、まだ言ってる意味が分かんねぇかもな。とにかく、オレは理解してもらうためなら、何度だって吉良に説明する。遠慮するな」 笑顔を輝かせるせんせーに、吉良の表情が少し柔らかくなる。 (怒らせるのは得策じゃないみたいね) 「じゃ、じゃあ公式の導出方法を教えてください」 ぺこりと頭を下げる吉良。せんせーは抱えたシャーペンを走らせた。
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