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「んー!寝たぁー!」
数学が終わった直後の放課、吉良は起きた。
「んー!寝たぁー!じゃねぇだろ鳳来寺!オレと同じで朝練あったのに、なんでお前は堂々と寝れる!?もう、じゅ・け・ん・せ・い、なんだぜ、オレら!」
吉良の隣に座る男子が呆れ顔で話しかけた。吉良は頬杖をつきながら返事をする。
「んー八事(やごと)、マジメなことゆーねー。おとわんみたいー」
「はん!おとわんみたいだったら数学苦労しねぇわ!」
机の中をごそごそさせながら八事は嫌味をこぼす。少し眉をひそめると、言葉を続けた。
「あー、やっぱねぇや。なぁ鳳来寺、『チャート』持ってない?今日の数学のとこ見たいんだけど」
「んー?あ、あったあった!はい、チャート。今日使ってていいよ。あ、これ貸しね!なんかお礼つけてね!」
お礼を要求しながらチャートと呼ばれた数学の問題集を八事に手渡した。
「えー。わーったよ、なんかつけて返すよ。サンキュー」
「あんた、いつからそんなマジメ君になったの?」
「えー、マジメって。いつまでも走ってばっかじゃいられねぇだろ。五月にやった中間テストの結果を母さんに見られて、『こんな成績じゃ、行きたい大学には行けないわよ!』って言われてさー」
八事は肩をすぼめ、さも今怒られたかのように振る舞う。
「ふーん。じゃあ私も勉強しよーかなー」
頬杖をやめて、机の上に放置された数学Ⅲの教科書を手に取って開く。
「ぬほっ!催眠術が……」
変な声を出した吉良から眠気オーラが発生し出す。
「やっぱ家に帰って一寝入りしてからにしよう!」
意を固めてぱたんと教科書を閉じた。
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