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「おい、オレの話は……」
呆れる小人の目線の先には、吉良の手に掴まれた化学の教科書。吉良はニコっとして化学Ⅱの教科書、158ページと159ページを勢いよく開いた。そこにはただただ銅アンモニアレーヨン、ビスコースの生成法と化学式しかなかった。吉良はムッと頬を膨らませて小人を睨む。
「技を習得していても、現れるとは限らないだろ」
吉良のやらんとすることを察した小人は、吉良に冷静に忠告する。
「うー、どうせならあらちゃんに会いたかったぁー!」
化学の教科書を持ちながら腕を上げ、伸びをしながら嘆きを部屋に解き放った。吉良は腕を戻し、数学の教科書の上に立っている小人に覗き込むように話しかけた。
「おとわんって、普段一人称『ボク』じゃなかったっけ?」
「お前、意外と洞察力あるな。この姿は、本体の東栄の性格の一部分が取り出されてるんだ。で、ちょうど強気な性格のとこが出てんだよ」
自分の体を少し見回しながら、小人は淡々と説明する。
「コレとあのおとわんが一緒か……」
驚きと呆れが混在する吉良。続けて小人に問いかける。
「ってか、このちっさいおとわんが私の前に現れている間、本体のおとわんはどうなってるの?寝てるの?」
「あー、今、オレがこうやって触れる実体として出てるだろ?この時は本体の東栄はそれなりに小さくなってるよ。まるで子供だね」
「本体が子供サイズって……哀れ……」
「おい、誰のために子供サイズになってんのか、分かってんのか?」
小人は見上げて少し睨みをきかす。
「お前が一組のクラス平均下げてんだよ!足引っ張ってんの、分かってんのかー!」
本日三度目のビンタが繰り出され、小人のネクタイが翻る。
「オレがお前の成績を上げてやる!」
短い腕で吉良の顔を指差した。
(こんな『オレ様小人=おとわん』って信じられない)
戸惑いを隠しきれない吉良だが、意を固め、
「分かりました。成績上げさせてください、『きょーかしょせんせー』!」
と叫んだ。
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