112人が本棚に入れています
本棚に追加
/99ページ
霊園に到着すると、日曜のせいか、チラホラ参拝者の姿が見えた。人気が無くなるのを待って、私はサングラスをかけると、目的の場所へと向かった。
小田切家の墓の前に立つと、私はしみじみとした感慨を覚えた。ここに、父と母が眠っているのだ。
私と京亮は、並んで手を合わせた。
(お父さん、お母さん。華奈は、ついに農水大臣になりました。お父さんが中途で手放さざるを得なかった夢を、私が実現してみせます。支えてくれる夫と、産まれてくる我が子と共に……)
その時、私はあっと声を上げていた。京亮が、びっくりしたようにのぞき込む。
「どうしたの?」
「今……、何か感じた」
私は、腹を指した。
「何て言うか……、何かが動いた気がしたの」
胎動を感じるのは、初めてだ。京亮の顔に、笑みが広がった。
「おじいちゃんとおばあちゃんに、挨拶したんだろう」
「きっと、そうね」
私は、優しく腹を撫でた。
「早く出て来てくれないかしら。そうしたら、また連れて来るわ」
「将来地盤を継ぎますのでって、挨拶しに?」
京亮はクスクス笑うと、私の肩を抱いた。
「そろそろ行こうか。ゆっくりしたいだろうけど、人目に付くと困る」
「名残惜しいけど……、そうね」
心の中でもう一度父母に挨拶して、私は墓を後にした。霊園を出ると、京亮はこう言い出した。
「ところで。僕らの通っていた小学校、割とこの近くだよね。もし負担でなければ、少し寄ってみない?」
「もちろん。是非行きたいわ。少しくらい歩いた方がいいでしょうし」
私は、即答した。小学校が近いことには、気付いていた。こちらから言い出そうと思っていたくらいだ。
私たちは自然と、手に手を取って歩いていた。周囲には、段々畑が広がっている。咲き誇るみかんの花の白さが、眩しかった。
幼い頃に慣れ親しんだ風景を眺めながら、私は密かに心に誓っていた。
(新たな『ガラスの天井』は、総理の座よ。私は日本初の、女性総理になってみせる……!)
了:お読みいただきありがとうございました。
最初のコメントを投稿しよう!