最終章 新たな天井

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 霊園に到着すると、日曜のせいか、チラホラ参拝者の姿が見えた。人気が無くなるのを待って、私はサングラスをかけると、目的の場所へと向かった。  小田切家の墓の前に立つと、私はしみじみとした感慨を覚えた。ここに、父と母が眠っているのだ。  私と京亮は、並んで手を合わせた。 (お父さん、お母さん。華奈は、ついに農水大臣になりました。お父さんが中途で手放さざるを得なかった夢を、私が実現してみせます。支えてくれる夫と、産まれてくる我が子と共に……)  その時、私はあっと声を上げていた。京亮が、びっくりしたようにのぞき込む。 「どうしたの?」 「今……、何か感じた」  私は、腹を指した。     「何て言うか……、何かが動いた気がしたの」  胎動を感じるのは、初めてだ。京亮の顔に、笑みが広がった。 「おじいちゃんとおばあちゃんに、挨拶したんだろう」 「きっと、そうね」  私は、優しく腹を撫でた。 「早く出て来てくれないかしら。そうしたら、また連れて来るわ」 「将来地盤を継ぎますのでって、挨拶しに?」  京亮はクスクス笑うと、私の肩を抱いた。 「そろそろ行こうか。ゆっくりしたいだろうけど、人目に付くと困る」 「名残惜しいけど……、そうね」  心の中でもう一度父母に挨拶して、私は墓を後にした。霊園を出ると、京亮はこう言い出した。 「ところで。僕らの通っていた小学校、割とこの近くだよね。もし負担でなければ、少し寄ってみない?」 「もちろん。是非行きたいわ。少しくらい歩いた方がいいでしょうし」  私は、即答した。小学校が近いことには、気付いていた。こちらから言い出そうと思っていたくらいだ。 私たちは自然と、手に手を取って歩いていた。周囲には、段々畑が広がっている。咲き誇るみかんの花の白さが、眩しかった。 幼い頃に慣れ親しんだ風景を眺めながら、私は密かに心に誓っていた。 (新たな『ガラスの天井』は、総理の座よ。私は日本初の、女性総理になってみせる……!)  了:お読みいただきありがとうございました。
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