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第1話
健康的でやわらかそうな肌に、ほんのりと香るさらりとした髪。性格は少しくらい気が強くても可愛いと思うし、あわよくば親しくなりたい。時折見えそうで見えないスカートと太腿の隙間なんて最高だ。
「ふぇへ……あだっ」
「顔。きめえんだよ」
願望が見せた束の間の夢から現実に戻る。
起こすには強すぎる力で頭を小突かれて、杉浦奏芽が机から顔を上げると、廊下に面した窓枠から不機嫌そうな表情で見下ろされていた。
「……お前隣のクラスだろ。なんでいんの」
「たまたま廊下通っただけだ」
弾みで揺れた椅子にややバランスを崩しそうになり、こちらもむすりと相手を見返す。
小学校が同じで中学で離れ、また高校で再会した深町巽が、数ヵ月前からことあるごとに絡んでくるようになった。
巽は奏芽から見てもそれなりに目立つし、もし校内にカーストがあるとしたら間違いなく上位者だ。それは自然と集まった巽の周りにいる友人たちも同じはずなのに、久しぶりに会っただけの地味な生徒に用があるとは思えない。
弁当を食べ終わり、机をくっつけたまま喋っていた女子たちがちらちらと巽を見ている。楽しそうに小声で話していても好意がだだ漏れで、もはや妬む気持ちさえ湧いてこなかった。
「モテてんなあ……早くクラスに帰れよ、昼休み終わるぞ」
「知らねえ女に好かれてもな」
巽の近くにいても引き立て役にすらならないのが物悲しい。ぼそりと聞こえた呟きが本当に興味なさそうで、そうですかと不貞腐れて頬杖をついた。
「余裕だな。男なら彼女欲しいだろ。もういるのかもしんないけど!」
「お前はヤりたいの間違いだろ」
「うぐ……っ」
鋭い。だが誓って、それだけが目的ではない。もし仮にそういう意味を含んでいたとしても、普通の男子高校生が考えることなんてそう変わらないはずだ。
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