【俺の子なんだろ?】

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「久しぶりだな」 そう言って微笑みかけると、麻衣は大きく動揺している。 2年という歳月は、俺たちを様変わりさせたようだ。 全体的に麻衣の雰囲気が丸みを帯び、以前の刺々しい印象がない。きっちり過去を精算して、歩み出しているというわけか? 俺たちがこんなにも引きずっているというのに。 作家の未来を潰した優秀な編集者だと、チクリと揶揄してやった。 「でも俺は昔のことを気にするような、器の小さい男じゃない。見知らぬ仲じゃないんだから、過去のことはお互い水に流そう。あれは今の俺にとっては瑣末なことだ」 そう、俺は今や人気絶頂の覆面作家。 かたや麻衣は、弱小出版社の一編集者でしかない。 ほら、今も怯えたような目で、近づいていく俺のことを見ている。 なにが狙いなのか、どんな魂胆があるのかと、その自信なさげな表情が物語っていた。 「これを取りに来たんだろ?俺の原稿は、今やどこの出版社も欲しがってる。これさえ出せば、君のところも安泰だ。それに麻衣なら安心して任せられる」 「大介…」 麻衣から名前を呼ばれると、あの頃に戻ったような気がするから不思議だ。 幸せだった結婚生活、そして破綻の終わりに待ち受けていた地獄。 「あぁ、一つ大事なことを言い忘れてた」 「えっ?」 原稿に手を伸ばしていた麻衣に向かって、静かに言い放つ。 「原稿が欲しかったら、土下座しろ」
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