サード・インパクト 聖書研究、そして大会へ……

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 大会はプログラム通りに進んでいく。やがて、洗礼(バプテスマ)の時間となった。  水着を来た男女の集まりが会場内のプール前へと訪れた。彼らは一人ずつ、係員によってプールの中へと沈められていった。浮かび上がった瞬間に、それを観る観衆は皆一斉に拍手を行う。どうやら、水に沈んで浮かび上がると共に「人間」をやめて「神の僕」へと生まれ変わり、正式なる信者になるようだ。年齢は様々、自分の両親と同年代の中年の姿もチラホラとみえた。複雑な気分になっていると、深田の洗礼(バプテスマ)が行われた。  深田本人にとっては人生の中の一大イベントだったのかもしれないが、私からすればプールの授業で見学をしていて、友人が泳いでいる姿を見るのと変わりがない。  男性数十人分の洗礼(バプテスマ)が終わったところで、次は女性の番だ。 水の交換はない。男性数十人分の汗や脂や毛がプカプカと浮かぶ汚いプールで女性達は洗礼(バプテスマ)を行うのである。男湯や市民プールと水の汚さ的には変わらない筈だ。 川で行う洗礼(バプテスマ)の水と比べれば綺麗な筈なのだが、私は女性達に同情の念を覚えてならなかった。  大会が終わった。閉会の挨拶もやはり代表(トップ)のビデオメッセージであった。信者からすれば楽しいイベントであったかもしれないが、異物の私からすれば理解の出来ない宴であった。  その帰りの道中の車の中で、深田は唐突に言い出した。 「俺、来週から『伝導奉仕』を行うことになった。不安だよ、いきなり知らない人の家を訪問して布教するんだ」 「深田くんが選んだ道でしょ? 頑張るんだね」 「でさぁ、来週からそのための『神権宣教学校』に行くことになったんだ。週末のスポーツジムも行けなくなった」 あちらから切ってくれるならありがたい。私はこのまま自然消滅を狙うことにした。この方が後腐れもない。スポーツジムの件であるが、我が家の近所にスポーツジムが新しく出来、24時間営業とのことで、利便性の点から切り替えようと考えていた。 それに加え、この頃の私は大学とアルバイトの傍ら自動車学校に通っていた。免許さえとることが出来れば、スポーツジムの切り替えもしなくて済む。ペア入会の途中解消による罰金もこれで払わなくていい。期限は一年、更新さえしなければこれで終わりだ。  ちなみに、神権宣教学校とは伝導奉仕の方法を学ぶための集会のことである。 「仕方ねぇな」 「でもさ、伝導奉仕は夕方までだから、夜は岩佐くんと一緒に集会行くために迎えには行くから」 「いいよ、そんなことしなくて。自分の都合を優先しな」 「本当は一緒に『兄弟』になって欲しかったんだけどな、いつかは岩佐くんと二人で伝導奉仕をしたいと思ってるんだ」 私は何も答えずに頬杖をつきながら窓を流れる風景を眺めていた。 終焉は近いと思っていたのだが、それはすぐに訪れた。
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