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付き合ってまもない彼女と別れるつもりなんだって、友人から沈んだ声で着信が届く。
こっちはひとりもんじゃ、相変わらずと心の中じゃぶすくれつつも社交辞令に理由を訊くと、どうやら彼女は食事のときに「いただきます」と言わないし、ありがとうと誰かに感謝したこともない、とのこと。
幼い頃から人ではない存在が「視える」ゆえに気になってしまい、それとなく注意を促したが聞く耳を持たない。
むしろ「こっちは買っているんだから感謝なんかしなくていい」とか「ありがとうなんて口にしたら、相手が調子に乗るからダメなんだって、みんな言ってる」だの、斜め上かよと突っ込みたくなる反論がかえってきたそうだ。
みんなって誰だよ。
そのせいで、周囲が嫌な空気に包まれていることも知らないから、強気に出たのかもしれないけどさ。
友人はため息混じりに愚痴をこぼしたあと、あんな性格だとは思わなかったと落胆している。
お前も知ってるだろうけど、食べ物ってさ、生命をいただくことじゃん。だからさ……あとはわかるよな?
まあねえ、と全てを言わずとも私は納得した。
肉や魚にとっては、生命そのもの。
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