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騎士の目覚め
目が覚めて、アレンは体を起こした。
どうしたことか。体が錆びついたように、ギシギシとして、節々が痛んだ。
辺りは薄暗く、静まり返っている。
一体、何があったのか。
なぜ、自分は倒れていたのか。
首をひねったところで、すぐ側に倒れていた部下が目に入る。
そうだ。さっきまで彼と話をしていて……。
「おい、しっかりしろ。おいっ!」
アレンは名前を呼んで、体を揺する。しかし、どれほど呼んでも揺すっても、部下はぐったり倒れたままで。代わりに、規則正しい呼吸だけが聞こえてくる。
「……寝てるのか? 誰か、」
アレンは助けを求めようとして、辺りを見渡す。そこでようやく、その異様な光景が目に入った。
今日はローザ王女、十五歳の誕生日。
夕刻からは、パーティーが行われることになっていた。その準備の手伝いに、騎士団までも駆り出されていたのだが。
「何だ、これは」
やけに静かだと思ったら。騎士も召使いも、ホールにいた全ての人間が倒れている……いや、眠っていた。
「そういえば、今、何時だ?」
ふと、窓の方へと目をやる。どこかおかしい。所々からかすかに光が入っているが、何かで塞がれているようだ。
「何だ?」
アレンはガラス扉を開け、バルコニーに出た。そっとそれに近づく。
初めは上階から、布が垂れ下がっているのかと思った。しかし、よくよく見てみれば違う。
葉がある……何かの蔓だ。蔓と葉が複雑に絡み合い、それがカーテンのように、外からの光を遮っていたのだ。
アレンは、その蔓を手で取り払おうとして、やめた。
「野茨か」
蔓には棘があり、素手でつかむのは危ない。
それにしても、この茨、どこから伸びてきたのだろう。
下へ目をやれば、足元に青い小鳥が転がっていた。一歩、足を出せば踏みつけしまう。そんな距離にありながら、小鳥は逃げようともしない。
アレンは、そっと小鳥に触れる。温かい。この小鳥もまた眠っているらしい。
そして、そのすぐ側には、もう一羽。
こちらは、茨に埋もれるようにして、既に事切れていた。無惨にも、辺りに羽根が散らばっている。茨にからまって、もがいているうちに、ますます締めつけられ、なすすべもなく死んでしまったのだろう。
側で、茨の花が咲いている。なんとも皮肉に思えた。まるで弔いではないか。
アレンは、やるせない気分になってホールに戻る。戻ったところで、先ほどと何も変わりはなかった。誰も彼も眠ったまま。
何がどうなっているのか。いや、こんなことができるのは。
「……魔女?」
悪魔の手先とも言われる、黒き魔女セシリア。
アレンはすぐにその名を思い出したが、「いや」と、首を振る。
セシリアは、ローザが生まれた時、パーティーに招待されなかったことを恨み、とんでもないことをしでかしたのだという。その罪で、彼女は、騎士団に討伐された。そう、先輩騎士から聞いていた。
ひとまず、城を探ってみるか。他に誰かいるかもしれない。
アレンは、ホールを出た。
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