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三城博士
地上十六階建ての建物の屋上。フェンスを越えた先にわたしは立っていた。眼下を見下ろすと、生存本能で身がすくむ。
今日、後輩の失敗で顧客に怒られた。後輩と言っても年は二つも上で、入社も一年しか違わない。トレーナーというだけで、先輩にも怒られる。わたしのミスが原因なら、まだ納得もいく。何もかもわたしが背負わなければならない理由がわからない。気分を晴らすため、わたしはこの屋上にやってきたのだ。
好きで始めた仕事でもなく、これといった目標があるわけでもない。いっそのこと、このまま身を投げたら楽になったりするだろうか。
「早まるなっ」
その時、どこからともなく声がして、背中を押された。わたしの体がはずみで空中に飛び出す。いや、ちょっと待って。まだそこまで覚悟が出来ているわけでは。投げ出された形となったわたしは、そのまま重力に従って落下を始める。
ああ、駄目なやつだこれは。ちょっと予定とは違ったが、このまま二十四年の人生に幕を閉じるのか。お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください。いやいや、わたし自身はまだ許してないし。走馬灯どころか、往生際悪くあれこれ考えてしまう。
ふと、わたしは腰回りに圧迫感を感じて我に返った。落下していると思ったわたしの体は、空中に静止していた。
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