至福の時

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至福の時

 海上訓練へ向けての勉強会や応急処置の方法のレクチャーが始まった。それを経験して、物資の少ない状況がいかに辛いかを知った。  今までもかなり大変な状況だと思っていたけれど甘かった。帝国はとても恵まれているんだと思う。少なくとも医療品不足で逼迫することは経験がない。だがそれも国内の商家や研究所が努力して、それらと交渉する宰相府の努力もあっての事だったんだ。  現在クリフは悩んでいる。本日乗る船が決定され、クリフはトレヴァー、トビー、ピアースも乗る最前線の船に同行することが決まったのだ。  持ち込める医療品は限られる。包帯などは少し減らし、鎮痛剤や輸血キット、消毒、抗菌薬などを考えているがそれの他にもある。 「クリフ、悩んでる?」 「ピアース!」  自室で真剣に考え込んでいた所に声をかけられて、クリフは驚いて声を上げた。側には嬉しそうなピアースがいて、自然と隣に腰を下ろした。 「ただいま」 「おかえり。ごめんね、気づかなくて」 「いいって、考え事だろ? 次の訓練?」 「そうなんだ。何を持って行こうかをそれぞれ考えるようにオリヴァー様に言われて」  側には色んな船での事故や病気についての資料がある。その中でも見過ごせない記述があるのだ。 「飴を、持って行こうと思うんだ」 「飴?」  疑問そうなピアースにクリフは真剣に頷き、手元のメモを見せる。  そこには「壊血症」という見慣れない病名が書かれていた。 「遠洋航海をする船乗りに多い病気で、帝国ではあまり馴染みがないみたいなんだけれどね。でも、外海に出る船乗りは一番に気をつける病気なんだって」  これが出てきたのは古い記録と、リッツの話だった。  今回の訓練にあたり、船乗りとしての経験も豊富なリッツからの経験談なんかが語られた。それらを聞くと船上はなかなか危険なんだと改めて思う。  食料を鼠から守る猫の大切さ、真水は腐る事、食料の補給路の確保。当然それらの港に入るには感染症など船内で出せない。それらが出たら寄港許可が下りないそうだ。  そして船乗りの病と呼ばれる壊血症は航海が長くなればなるほど出てくる事だ。 「ビタミンC不足によって起こる病か。確かに新鮮な野菜なんかは長くなると保たないから減るな」 「うん。それによって衰弱や疲労感が増して皮膚はへこみ、皮下出血が起こったり歯茎から血が出たり、歯が抜ける事もある。酷くなれば死ぬらしいんだ」  実際、リッツの船でも犠牲者を出した事があるそうだ。この病気の予防策が講じられる前だったそうだが。 「それを防ぐための飴があるから、それを積んでいこうと思うんだ」  今回の訓練は十日程を予定している。その間に帝国内のいくつかの港にも寄るし、ジェームダルの港にも寄ることを考えている。そこで水の確保や食糧の確保をするが、それでも万が一があるんだ。 「でも、俺達の中でそんなの発症した奴はいないけれどな?」 「それは新鮮な食べ物を補給する場所が豊富で、栄養が偏る日数が少ないからだよ。万が一もあるし、これは長期を想定してもいるから」  その分の荷物を減らす。だから包帯や骨折時の接ぎ木は諦めた。包帯は最悪服を裂いたりシーツを裂いたりすれば作れる。接ぎ木だって最悪は剣の鞘で代用できる。そういうものは諦めて、代わることの出来ない物資を選んでいるんだ。  ふと、気になって隣のピアースを見る。日に焼けたし、腕や足の怪我は増えた。指の腹は硬くなって、手も硬い。その手を取ってフニフニと揉んで、クリフはちょっと落ち込んだ。 「どうした?」 「ピアース、逞しくなったなって」 「ん?」  疑問そうに首を傾げる人を見て、クリフは苦笑した。 「船の上って想像つかなかったけれど、思った以上に過酷で大変そうで。その中で、ピアース凄く頑張ってるんだって思って」 「クリフの頑張りに見合う男でいたいからな。とはいえ、トレヴァーには到底及ばないんだよな。あいつ、本当に凄い」 「そんな! 僕だって全然だよ。ランバートやゼロスなんて本当に凄いし、医療人としてオリヴァー様やエリオット様は神様みたいに思う。まだ全然、背中も見えていない」  あまりに前を行く人達の背中を、必死に追いかけている。  そんなクリフの頭を、ピアースはぐりぐりと撫で回して笑った。 「それでも頑張ってるじゃん? それが誇らしい」 「ピアース」 「頑張るクリフは尊敬できる。でも恋人としてはもっと甘えて欲しいし甘やかしたい。安心して甘えてくれるように逞しくなりたいなって思うんだ」 「今も十分甘えてるよ! あの、ごめんね。今回船の事とか色々知って、ピアースの大変さとかも知ってね。それで心配になっただけなんだ」  内勤でもある第四の訓練はそう厳しくはないし、鍛える部分も違う。クリフは日々知識を得る事や実地での事が多い。薬を作ったり、薬草を見分けたり。これも訓練だけれど、怪我のリスクとかは少ないんだ。  ピアースはふわっと笑って、キュッと抱きしめてくる。逞しくなった背中に腕を回すと安心して、クリフは目を閉じた。 「それぞれだって。俺にはクリフみたいな方法は無理だ、頭が足りないし」 「そんな事無いよ」 「あるの。だからさ、それぞれの方法で頑張ればいいと思う。頼もしいよ」 「……頑張る」 「おう」  本当は少し落ち込んでいたのに、今は穏やかな気持ちでいられる。甘えてすり寄る胸元も筋肉がついて逞しくなった。  自然と離れて、笑ってキスをする。沢山の大好きを詰め込んだ触れあいは嬉しくなる。そのうちに離れて、ピアースはクリフの体を抱き上げてベッドに下ろし、上へと陣取った。 「あの、ピアース?」 「ちょっとだけ、駄目か?」 「いいけど。明日も仕事っ」  言っている側から首筋に唇が触れて少しくすぐったく感じる。でもそれは直ぐに疼きに変わる事をクリフはもう知っている。 「無茶な抱き方もしないし、無理もしない。今日はまだ早いんだぜ」 「本当だ」  時計を見るとまだ就寝時間の二時間前。本当に早い時間だ。  上の服を脱ぐピアースの体はロッカーナの時代に比べてかなり引き締まった。盛り上がる上腕の筋肉に、引き締まった腹筋。やや日に焼けた体で、所々は色が違う。腕には縄で擦れたような跡が消えずに残っている。それらにそっと触れた。 「どうした?」 「ううん。凄く逞しいなって」 「あはは、だろ? 昔に比べてでかくなったよな、筋肉とか。昔の俺がこれ知ったらマジで喜ぶだろうな」  凄く明るく笑うピアースがクリフの服を脱がせていく。こういう時、少し恥ずかしくて情けない。クリフの体はまだ柔らかいままだ。厳しい訓練はしていない。クリフが日々訓練するのは回避と防御。それが衛生兵特化として選んだクリフの戦い方。絶対に死なないために相手の動きを先回りで予想して回避し、隠れて気配を消す訓練。それだって楽じゃないけれど、他の騎士の訓練に比べればぬるいものだ。  そのせいか、体に筋肉があまりつかない。奥の方は硬い部分もあるけれど柔らかく、残るような傷はない。相変わらず白くてなまっちょろいままだ。 「ちょっと、恥ずかしいな」 「ん?」 「僕も筋トレ、したほうがいいのかな?」  思わず出る言葉を聞いて、ピアースはキョトッとする。その後は笑って柔らかい首筋に吸い付き、胸を揉んだ。 「んぅぅ」 「俺は好きだよ、クリフ。勿論筋トレはいいと思うけれどさ、見た目じゃないだろ? クリフの強さはここなんだから」  そう言って、心臓の上をトントンと心地よく叩かれる。途端に生まれる熱は欲情ではなくて勇気だ。いつもピアースがそれをくれる。 「クリフの勇気に俺は元気を貰う。活力も貰う。俺の何かはクリフを元気にできてるか?」 「出来てるよ! 僕はピアースから元気を貰うし、優しさも勇気も貰う。頑張りたいって思うよ」 「それなら良かった。お互い様だよ、クリフ。気負いすぎたり、無理したりはしなくていいんだ。もう十分、俺もお前も頑張ってるだろ?」  そう言って甘やかしてくれる人をちょっと困って見てしまう。彼がくれるものはどれも甘くて優しくて心地よくて。居心地が良すぎて困ってしまうんだ。 「僕、ピアースの事大好きだよ」 「俺もだよ、クリフ」  お互い笑ってキスをして、手が体をなぞるように触れていく。ひくりひくりと反応しながら白く柔らかい体を震わせてクリフは喘いだ。 「俺さ、今回クリフに俺の仕事見せられるのちょっと嬉しいんだよな」 「ん? っ」  硬い指が桃色の胸元をフニフニと揉み、頂きにある乳首を優しく刷り込む。ゾクゾクした気持ちよさが背中にも流れて震えてしまう。体は更に下へと下がっていって、大人にしては小ぶりな昂ぶりへと唇が触れた。 「はぁ! あっ、ピアースぅ」 「可愛い。俺の口に全部入りそうだよ」 「ひぅ! はぁ、あっ、んぁあ」  掠れた甘え声が洩れて、恥ずかしさに唇を覆うように手の甲を置いてしまう。ブルブルと震えながら気持ちよさに喘ぐクリフの昂ぶりを、ピアースは大きく開けた口で咥え込んだ。  濡れた舌が根元から刺激して、先端は口内で擦れる。ムズムズするのと同時に溶けてしまいそうなくらい気持ち良くて腰が浮いてしまう。その腰に腕を回したピアースは更に奥まで咥えてしまう。荒い息を吐いて目眩がするほどぼーっとして、クリフはずっと声を上げている。 「ピアース、だめぇ……でちゃうっ! んぅぅ!」  チラリと見上げた彼の嬉しそうな顔を見ると恥ずかしさに爆発しそう。でも直ぐに激しく追い立てられて霧散する。ビクビクと細腰を震わせながらクリフはあっという間に陥落してしまった。 「ふっ、うっ……ふぅぅ」 「大丈夫か?」 「大丈夫、じゃ、ない! 腰溶けちゃうよ!」  少し恨めしく言えばピアースは笑っている。そして自分も下を脱いでしまう。  形も大きさも男のそれと分かる立派なものだ。それはもうトロトロに先走りを零している。 「ピアース、僕も……」 「駄目! 俺が早漏なの知ってるだろ? お前にされたらあっという間に出ちゃうよ」 「でも直ぐに回復するのに」  自己申告の通り、ピアースは早漏だ。だが回復は早くて体力もある。だから何回だってできるんだ。  お願いはするが叶う事はない。既にトロトロのクリフでは無理矢理する事もできない。まな板の鯉のように転がされるままピアースの腕の中、香油を纏わせた指が後ろへと伸びて窄まりを優しく撫でて潜り込んでくる。節のある硬い指が中を寛げていく違和感にも最近慣れた。 「はぁ、あっ、あぁ」 「可愛い、クリフ。気持ちいい?」 「気持ちいい」  また朦朧としてくる。耳元に囁かれる声が甘い。背中に腕を回して喘いでいる間に指はよりしっかりと解し始める。それ程硬いわけではない。少しすれば二本飲み込んでも無理がなく、そうなれば三本目もわりと簡単に飲み込む。足された香油がぐちゅぐちゅと尻を濡らす不快感は多少あっても、引き連れる痛みなんかはないんだ。 「クリフ、いい?」 「もっ、いい、からっ! ピアース、欲しい」  濡れた瞳がすぐ側にある。キスをされて、その間に指は抜けてより確かな肉感を感じながら埋まっていく。硬くなった剛直を飲み込む少しの痛みに声を上げるが、しばらくすればそこに甘さが滲む。ジンと痺れる甘い快楽が体も頭も支配するから。 「っ! クリフの中、柔らかくて狭くて温かい」 「そういうの、言わないでぇ」  恥ずかしくなってしまうが、ピアースは嬉しそうだ。  ゆっくりと内壁を擦る熱が深くなっていく。じわじわ痺れる感覚が広がって力が抜けてしまいそう。腹の中はピアースで一杯で少し苦しくも感じるけれど、それだけ埋まっているという幸せも感じてしまう。 「っ! クリフごめん、出そうっ」 「いい、よ? 沢山出してっ! あっ、はぁ、あぁぁ! イッ」  ゆっくりだった動きが徐々に深く激しく中を擦り上げ奥を抉る。行き止まりをトントンと叩かれる度にクリフの昂ぶりからは僅かに白濁したものが少量押し出されていく。突く度に軽くイッているのだ。 「っ! クリフっ!」 「んぅぅ、ふぅ、んんぅぅぅぅ!」  ギュッと抱きしめられて、クリフも同じくらい抱き返す。ぴったりと重なった体の間でクリフの昂ぶりからは快楽の証がしっかりと吐き出されて互いを汚し、クリフの深い部分ではピアースの熱を受け止めている。ドクドクと注がれていくそれを愛おしいと感じながら余韻に浸る時間が、クリフの至福の時だった。
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