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*プロローグ
ちょっと古い映像の中で微笑み合う一組の男女。ふたりはしあわせそうに見つめ合い、それを取り囲むように人々が祝福をしている声が聞こえる。
純白の手作りのドレスに一張羅のスーツ、そしてふたりが祝福されている場所はちいさなレトロな雰囲気な喫茶店だった。
一見しあわせそうな、手作りのささやかな結婚式の風景に見える。
しかしその中には、ふたりと、そしてふたりを祝うように会場のアップライトピアノを奏でている若い男のピアニストが共有する秘密があった。
その秘密が、ひとりの少年の――恵太の、運命を揺るがすことになるなんて、きっと誰も、ふたりも……ピアニストの彼も、思いもしなかったのだろう。
だから彼は彼への想い封印したんだろうか。彼女に後ろめたいものがあって、隠したいものがあって。
――そんなもの、ただの大人のエゴの残酷なやさしさでしかないのに……
映像の中のやさしいピアノの音色が耳元に触れるたびに、いつも少年はそう苛立ち、唇を噛んだ。
恵太が真実を知るまで、あと……六カ月と少しだった――
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