第1章 副社長と契約恋愛(1)

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 唯は息を殺して、じっと耳をそばだてた。 「ああ、すっごいちょうどいい女なんだ」 「何それー」  非難するような言葉だが、女性の楽しげな笑い声が聞こえる。 (ちょうどいい、女)  不快な響きだった。 「副社長の秘書をやっているから忙しいが、お金は貯まる一方。ちょっと頼めばすぐに金は出してくれるからな。結婚すれば仕事しなくても大丈夫だろうし、日中も遊び放題だ」 「あはは、本当にクズ!」 「そのクズが好きなんだろう」 「まあね。でも結婚するなんて、ちょっとやだなぁ」 「俺が結婚するのは財布だって思えばいいだろ。可愛さも色気もないから、一度もヤッてないしな」 「相当色気ないじゃん!」  ドッと笑いが起きる。  しかし、唯はすこしも笑えなかった。  怒りはこみ上げていた反面、冷静な部分が警鐘を鳴らしていた。すぐにでも、渡したばかりの合い鍵を回収しなければならない。  こういうところが可愛くないし、色気がないと言われるのかもしれない。  唯は言われたばかりの言葉を思い出してしまい、胸がズキリと痛んだ。
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