228人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
唯は息を殺して、じっと耳をそばだてた。
「ああ、すっごいちょうどいい女なんだ」
「何それー」
非難するような言葉だが、女性の楽しげな笑い声が聞こえる。
(ちょうどいい、女)
不快な響きだった。
「副社長の秘書をやっているから忙しいが、お金は貯まる一方。ちょっと頼めばすぐに金は出してくれるからな。結婚すれば仕事しなくても大丈夫だろうし、日中も遊び放題だ」
「あはは、本当にクズ!」
「そのクズが好きなんだろう」
「まあね。でも結婚するなんて、ちょっとやだなぁ」
「俺が結婚するのは財布だって思えばいいだろ。可愛さも色気もないから、一度もヤッてないしな」
「相当色気ないじゃん!」
ドッと笑いが起きる。
しかし、唯はすこしも笑えなかった。
怒りはこみ上げていた反面、冷静な部分が警鐘を鳴らしていた。すぐにでも、渡したばかりの合い鍵を回収しなければならない。
こういうところが可愛くないし、色気がないと言われるのかもしれない。
唯は言われたばかりの言葉を思い出してしまい、胸がズキリと痛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!