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大人しかった私が中学生の頃、一度だけ立候補をしたことがある。
選挙管理委員会という一時的な活動組織の選出時。単に季節仕事は内申点が上がるという噂、自己満足な理由からだった。
そこで一緒になったのが彼。互いに「そういえばいたな」という程度の認識で。
それが個人的に挨拶を交わし話すようになったのは、高校受験の面接練習。そこを志望する生徒は私と彼だけだったのだから、半面識は互いに不器用ながらも励まし合う関係となったのだ。
そうして私たちは晴れて合格をしたのだが、そこはまるで異国のような、また知らない地に置き去りにでもされた気分で。
だから自然と行き来のバスを共にした。
春夕、その日は何故かいつも以上に混んでいて、普段は立ったままの私たちも、疲弊から幸い空いたところへ隣同士で座ったのだ。
こんなにも近い距離感は初めてで。私は窓側に体を預け、息苦しさにネーブルオレンジのマフラーを取って。
二人の僅かな間に何の気なしに置くと、鞄を強く抱いた。
座席の横でサラリーマンが吊革に掴まり当然こちら側を常に向いている状態。
それだからひそひそと喋くる気にもなれず、次に私は手持ち無沙汰からそのマフラーの柔らかさや温かさを求め手を突っ込んだりを無意識にするのだった。
そこでふいに一度だけ触れた指先から硬直したまでは良い。
だが何の魔が差したのか……。
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