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どちらからでもなく指は控えめに絡められたのだ。
少し乾燥した質感に、驚くほどの温かさを持つ彼の熱が私へ広がり、他人同士の体温が混じり合い一定になる感覚は。
不思議なほどに多幸感が膨らむことを知った瞬間だった。
私は窓の外にいつも通り視線をやり、硝子に映った彼もいつも通り携帯の画面に表情を落としていた。
何でもない風を装いながら。不自然に互いの手元を隠して行うその行為は、酷く興奮芽吹いたことを今でも鮮明に覚えている。
慣れない学校生活という環境下で寂しかったのもあり、それを慰め合ったのかもしれない。
ほぼ毎日連絡を取り合う他校へ行ってしまった親友よりも、この男からの方が今を生きる中で求めていた安堵を簡単に摂取出来ると。
降りるまでそれを解くことはしなかった。
だから一度覚えてしまえばもう。
どんなにバスの座席が空いていても共に座り、部活もしていない私たちは、会話をしない代わりに隠れてそれを絡めて繋いだ。
バスで会う、中学が同じだった知人らからも聞かれたり、からかいのような指摘を受けたが考えたこともなかった。
言うなれば枠から手だけがはみ出た友人なのだろうか。私はそれよりも放っておいて欲しいとばかり考えていた気がする。
そんな奇妙で心底曖昧な関係性は、ひっそりとこのバスの中で繰り返されたのだが。
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