見詰める瞳。

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 数多ある世界のひとつ。此の世界に存在する龍とは、世を造り上げた天帝より地を統べる任を担う五匹の龍神の事で、五龍と呼ばれる。  春を司り、風を起こし、緑育む種を運ぶ青龍は、東を守護する。夏を司り、炎により恵みと罰を与える赤龍は南を守護する。秋を司り、金を育み、雷雲を呼ぶ白龍は西を守護する。冬を司り、水を守る黒龍は北を守護する。そして、天と対をなす地を任された龍達の長、黄龍は全ての龍の力を支え繋ぐ地の力を持ち、正に其の地の中心を守護する役を担っているのだ。五龍は全ての地を余すこと無く管理し、守る為に多くの優秀な魂を特別な地位へ付ける。先ず、己等の側を許す存在が強大な力を持った大蛇から成る使い達。 其の下に、其々管轄下の地を守護する主(ぬし)を。其れ等は、龍の寵を最も受ける使いの大蛇が管轄する事と定めた。  そして、神使も各地へ多くの部下を従える。それは、龍の宮殿に仕える官吏達とは又異なり、守護者なる地位を与えられた者達。龍が管轄している地は、とてつもなく大きく広いもの。故に其れ等は更に細かく区分けされ、その地其々へ守護者が寄り添い、管理、守護しているのだ。彼等は、黄龍により不老長寿と無病息災の加護を賜る特別な存在。そして、掛かる地と職務に要する他龍の力も与えられるのだ。  そんな世界の、ある地に存在する湖。強い天の光りも優しく降り注ぐ其の奥底、銀色の身を持つ美しい大蛇が守護者として置かれていた。其の大蛇は、天性の純粋さを持ち、何事にも真っ直ぐな性質。黄龍より守護者として認められ、湖を守る為に黒龍の力を授けられた。区域内では最も若い守護者となるも、既に後継者なる弟子をも置く。  その弟子とは、生まれる前に両親を失くした哀しい宿命を負った赤い身を持つ大蛇。しかし、幸か不幸か親より授けられた力は、神に近いと吟われる強い精気を持つ大蛇の平均を超える程。己の力で命を繋ぎ、朽ちた母の腹より出て来られたのだ。紆余曲折経て湖の意思に導かれ、育ての親より譲り受けられる事に。幼い頃より親元を離れ、湖に導かれるままにやって来た。双方を繋ぐのは、湖の意思だけなのか。少なくとも、弟子である赤い身を持つ大蛇は、そうではなかった。
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