EP1.人生初眼科

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と、自分の肉体の老化を感じつつも、本当のおじいちゃんたちに囲まれながら天才小説家の俺様は世を忍ぶ仮の姿として警備会社に身を寄せ、某コロナ療養所の施設の裏口に待機し、出ようとする人がいたら扉を足で押さえつけて出るのを阻むという味わい深い仕事をしたり、某駐車場の管理人として日々を淡々と過ごしていたわけだが、一昨年に母が他界し、それ以来茨城の実家には誰も棲むことがなくなり、運よくこの度売却することが出来たようで、兄から 「最後に実家の整理に来い」 と言われ、久々に三日間の休暇を取り、旅行を兼ねて嫁と茨城に向かう手筈を整えていた その三日前の朝 目のかすみがなかなか取れなくなった 元々、寝起きはぼんやりとするもので、老眼もやや進行していたので、朝刊はいつも近視の眼鏡を外さなければ読むことが出来ない状態にはあったのだが、その朝は眼鏡を取ろうが目をぱちくりさせようが、どうやってもすっきりとしない 「まあ昼になればなんとかなるだろう」 という、「なんか変なことがあっても寝て起きたら全て解決してる」と思い込む「小学二年生マインド」で仕事に向かったのだが、結局、すっきりしない。それどころか、試しに片眼を瞑ってみると、鼻側の部分が全く見えていない。おまけに、全体の視野も朝よりも狭くなった(気がする) 「これは流石に一度医者に行っておいた方がいいのかも」 と、年を重ねることで何とか身に着いた発想をし、ドライアイを患っている嫁が診てもらっている近所に出来た眼科が、翌日は土曜日ながら午前中だけ診療していることを確認し、とにかく、診てもらう事にした その眼科は開業してから半年も経っていないというのに、先生の腕がいいのか人当たりがいいのか、朝一で行ったにも関わらずそこそこ込み合っていた 受付を済ませて呼ばれるまで、それなりに手持無沙汰なので、待合室に置いてあったリーフレットが置いてある棚を見てみる ドライアイだの白内障、緑内障などのものがあり 「強いかすみ目の私の場合、白内障?いや、視野が狭くなっているから最悪、緑内障なのか?でも、一日でこんなに進行するものなのか?」 とか思いながら、少々物色していると 「加齢黄斑変性」 なる聞きなれない疾病のものが目に留まった。いやいやいや、五十代前半の吾輩が「加齢」って とかなんとか自分の肉体の衰えを自覚しているにも関わらず、軽く否定してみたものの、他に思い当たるようなものもなく、聞いたこともないものだったので、「さて、どんなもんなんだろう」と思う気持ちもあって、その冊子を手に取ってみた んで、そもそも「黄斑」とは?みたいな入り口にも差し掛かってないようなところで名前が呼ばれ、診察の前に検査をする運びとなった 眼科自体がほぼ初めてなので他のところがどうなのかは知らないが、実際先生がいる診察室よりも大きなスペースが検査室としてあてがわれていて、何個もの検査装置が置かれていた。のはともかく 助手のお姉さんの数の多さが、よく行く内科や耳鼻科にいるお姉さんの数の比ではない。しかもこの医院自体が開業間もない為、恐らく設備もいいし、嫁の話によると先生も若い人だったし、全体が明るいというか、病院に対して言うのも何だが活気がある感じで、なんやったら週一で通ってお姉さん方ときゃっきゃしたいような雰囲気だった そんで、よくある例の「気球映ってるやつ」とか覗かされて 「これ、油断してたら空気吹き付けるやつ?」 と言うと 「ちがいますよ。リラックスしてみててくださいね」 みたいなこと言われてなんとなくきゃっきゃしながらいくつか検査して、どんなんか忘れたけど、何かの検査したら(←闘病記なのに肝心なところを覚えていないファインプレイ) お姉さんの顔色が 「……えっ」 みたいに急に曇って、ちょっと奥に引っ込んだかと思うと、黒い丸が中心に打たれていて全体に格子模様が描かれているボードを持ってきて 「右目だけで中心の黒い丸を見てください。周りはどう見えます?」 って言われたので 「ムンクの叫びの背景みたいになってます」 って、芸大(大阪のやけど)OBらしからぬベタな表現したら 「すみませんがこちらに来てください」 と別室に案内され なんだか活気があった病院に、急に福本伸行の漫画みたいな「ザワザワ、ザワザワ」という太い書き文字が現れた(俺様の印象の中で) んで、つれていかれた別室は真っ暗で 「おいおいおい、お嬢さん。会ったばかりだっていうのに、急に発情したのかい?」 という冗談を言う間も与えられないまま機器の前に座らされ 「はい正面みてください」 と言われたので 「暗闇の中で俺と目と目を合わせたりなんかしたら、とろけても知らねえぜ」 と、念じながら目を開けていると 「バシャッ」 って強い光が出て来て、ふいにバルスくらったムスカの追体験させられたので 「目がぁ、目がぁ……」 とか言っても、なんだか緊迫した空気だったので、ゲロ吐くほど滑ってしまうと予想できたので 「こういうときこそ『油断しないで』って言ってよ」 とか何とか言いつつ、全ての検査を終えて再び待合に戻って待っていると、ようやく診察室に呼ばれた
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