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村の宝
エタ村は魔法使いに救われた。
五日五晩の雨が降り、かつて村は水に沈んだ。
しかし一人の魔法使いが、
大魔女様の加護により災いを予知して民を救った。
これこそはかの人物が身に着けた衣服。
未だ大魔女の加護を宿し、
村を見守る宝である──。
厳かな声に、ルドはくっと唇を噛んだ。
そうしないと噴きだしそうだったからだ。
地上に魔法をもたらしたという大魔女伝説を笑う気はないが、これは……他の子供達もどうやら同じで、彼の周りには肩を震わせる者もいた。
普段は施錠された、村長の家の奥の間だった。
燭台のみの灯りが、
壁にかけられた衣服を荘厳に引き立てる。
村の宝として大人達に讃えられる、
魔法使いの遺物。
…だが。
ないなあ、と思う。つい。
ルドの隣で、ふっくらとした少女があくびを殺す。
衣服の形は人間の全身そのものだ。
下半分は何かの毛で白銀に煌めき、
上は大半が浅黒く、
フードについた燃え立つ赤毛が背中まで波打つ。
部分ならば美しいが、
全体では何とも言えない滑稽さ。
まして誰かがこれを着て、
頭から爪先までこの格好になると思うと……
ルドはとっさに壁際を向いた。
するとそこに立つ三人の旅人が眼に映る。
この夜のため訪れた彼らはさすがに神妙な面持ちで、特に最も背の低い男は瞬きもせず凝視している。
その食いつきぶりが伝わったか、
子供達の忍び笑いに気づかないのか、
村長はますます厳かに宝の由緒を語る。
大人って変だとルドは思い、
けれどすぐに思い直した。
自分達も、もうすぐそちらへ行くのだと。
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