詩「青い街灯」

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街灯。の光の下に飛んでいる、蛾、こども、 その声と、青白い影が描く螺旋の光。ぼくは 引っ越しを考える(一緒に住みたい人がよう やく見つかったんだ)安堵の月夜、その悲し さは最後の一滴になって、電話、目薬、ホト トギスの旅、「一緒に暮らさないか」だってさ、                    ね                    え               、聞いてる?  きみは九月の引っ越しに対して、まだ早いと 言った。ぼくはそれまでに鬱を治すからと言 った。きみの娘は言った「三人で暮らしたい ね」と、確かに言った、その瞬間。にぼくの 青白い街灯は粉々に砕け散って、霧散した。 そして時は流れて、今、ぼくはとても幸福で  ある。 椅子に座って、本を閉じて、薄いカーテンの 向こう側にぼんやりと光る空を眺めながら、 遠くから聞こえる鳥の声に「ねえ、今度の週 末は沖縄に行かない?」きみからの言葉。は 群青だ(揺れるクラシックの音に合わせて観 葉植物は明日も育つ明後日もそのまた次の日 も)愛があればなんでもできると信じていた                    け                    ど                 、現実は 「ある程度の金が必要なんだね」大切な人を 守るためにはお金。がいるんだと、ぼくが言 って聞かせるその傍らで、微笑んでいるのは 過去ではないことをただ祈るばかりだった。  ありがとう――。 (青い光。は月。の光だけだと思っていた大 昔の自分はもうこの世にはいなくて、石畳の ある田舎の町の隅っこではまだそんな風がき っと吹いているとぼくは思っているんだよ) 「まるで映画ね…」(そうだとも!) そうだとも! ぼくはここにいたんだ。この 包まれるような白波の彼方からやってくる町、 その緑道とトンネル、それがぼくだったんだ。  ――さようなら。  つぶやいて、ささやいて、ときめいて、羽 をやすめて、あたたかいまぶしさ、その悲し さに、物語をつけるとしたら、きみはきっと 涙なしでは――「今日はなにを見るの?」「ボ ンド、ジェームズボンド」(ああ、好きだ、悲 しさが)月明かりを部屋に、窓に、カーテン に。さようなら、とお休みなさい。の言葉の 影に、ぼくはきみと確かな愛が悲しかった。
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