2894人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
そんな時、配属されてきたのが川上琴美。小さくてフワフワして頼りなく、可愛らしい子だった。
(咲桜と正反対だな)
そんな風に思った。咲桜は俺とあまり身長が変わらないから、並ぶとちょっと気が引ける。咲桜も気を遣ってヒールを履かずにいてくれるが、それがまた嫌なんだよな。
でも琴美は150センチくらいのホントに小さな子で、喋り方もとても可愛い。仕草も若さに溢れていて見ていると自然と笑顔になってしまう。
琴美を狙っている男は営業所内にたくさんいた。だが、琴美はその中で俺を選んでくれたのだ。
ある日のノー残業デーに、ご飯連れてってください、と書かれた付箋が俺のデスクに貼ってあった。もちろん俺は応じた。久しぶりの平日デート、どこへ連れて行こうか検索するのも楽しく感じる。
そんな水曜日が三回続いた後、琴美に告白されたのだ。
俺は迷っていた。咲桜とは気楽に付き合える反面、もうマンネリになっている。
琴美とは今一番楽しい時期だが続くかどうかわからない。
幸いまだ咲桜には何もバレていないから、しばらく二人を天秤にかけておこうと思っていた。
それからは水曜と土曜は琴美と会い、日曜の夜だけ咲桜の部屋でご飯を食べる日々を送った。
正直、ずっとこのままでいい。可愛い琴美、穏やかな咲桜、二人をキープして楽しく過ごせたら……と思っていたのだ。
だが、どうやら俺は咲桜の話をよく聞かずに返事をしていたらしい。咲桜と話しながらもバレないようにこっそり琴美とLIMEをしていたから、そちらに気を取られていたのだろう。
まさか、一緒に住もうなんて口にしていたとは迂闊だった。
俺にその気はないとわかった咲桜は、それでも結婚前提の同棲を提案してきた。
やはり、三十路直前の女はダメだ。結婚を焦り過ぎている。怖くなった俺は咲桜に別れを告げてすぐに立ち去った。
せめて二十代のうちに別れてやることが俺なりの誠実さだと思ったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!