─第二章─約束をしよう

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ルイside──────── * * * 「ルイ様、今日は庭園に出ませんか?」 「そうだな……天気も良いし」  本日も相変わらず甘やかな蜂蜜色の瞳でこちらへ微笑むギルに俺も変わらず笑って答える。  ギルが俺を庭園に連れ出そうとする日は、部屋に戻ると決まって隅々までピッカピカになっている。恐らくというか絶対だが、俺がいると掃除できないからだろう。流石に俺だって気付いてはいるがギルが気を使ってこうして触れないで居てくれている手前、わざわざ言うのもなぁとそのままにしている。  まあ……多分ギルの方も、俺が気付かないふりしてるのに気付いてはいると思うけど。 「相変わらず満開だな」 「ええ、ダンの腕が良いからでしょう。ここの庭園はいつ見ても華やかなんですよ」 「あと、甘くて良い匂い」 「……本当にルイ様はそればかりですねぇ」  そういったギルは肩を竦めて「ああでも、部屋からはバルコニーに出ても多少香る程度ですからね」と苦笑した。そうそう、あの部屋かなり高い位置にあるもんな。  曰く、この華やかな庭園はここの庭師達が丹精込めてつくっているものらしく、年中何かしら黄色の花が咲き乱れるように管理されているのだとか。確か、ギルの母親が黄色の花好きだったんだよな。  ギルの母親は既に他界しており、父親は存命で言わずもがな今も尚この国の王座に就いている。……ただ、話を聞く限り家族関係は宜しくなさそうだけど。  と言うのも、ギルの母親は平民で元は王宮で働く一使用人だったらしい。それが何故王と彼女の間にギルが生まれる事になったかと言えばそれは簡単な話で、単にギルの母親が非常に美人で当時の王に言い寄られて愛人関係になったから、と言うだけのことらしい。  あっけらかんと話すギルに俺は、いやいや充分とんでもない話だろと思ったが、聞けばこの国じゃ皇族や高位貴族……つまり高貴な血とか言われるものが流れている人間達のそういった傲慢が罷り通りやすいのだそうだ。  で、その「我こそはー」とか言って血筋を重んじる上流階級の人間達に、ギルはたいそう疎まれているらしい。それも平民の血が混じっているにも関わらず神聖な皇宮に住み皇家に名を連ねている、なんて迷惑極まりない理由で。  一番意味がわからないのは、父親である皇王までもが平民の血を引くギルをよく思って居ない事だ。じゃあ子供作るなよって思うけど、そしたら俺はギルと会えてない訳で……まあでも、とにかく全くもって身勝手な話である事には変わり無かった。  まるで世間話でもするかのように淡々と自分の生い立ちと今置かれている状況を話すギルに、俺は思わず気まずげな顔をしてしまったのだが「僕は父親の分まで、母とここの使用人達に愛してもらったので大丈夫ですよ」とか爽やかな笑顔で言われた。  ギルは俺にとって全くの他人の話じゃないから、流石に『本人が気にしてないならいっかー』なんて軽く割り切れはしない。だけど、だからって俺がギルの気持ちも無視して一方的に憐れむのも違う気がして、とりあえずは努めてあんまり考えない事にした。  そんな事情もあり、ここ第二皇子宮はギルの母親を慕い、擁護していた人ばかりなんだとか。
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