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そろそろ日が西に傾き始めていた。
放課後。オレンジ色に染まる教室の中は静かだった。
グラウンドでは運動部が活動しているはずなのだが、その声は全く耳に入ってこなかった。
完全な静寂。
机を挟んで僕の向かい座る笠木真央の白い肌もオレンジ色に染まっている。
無言のまま下を向いている彼女に、僕は伝えねばならないことがあった。
この静けさを乱すのには勇気がいるが、それでも僕と彼女のためを思えばそれぐらいなんでもない。
「あのさ、話があるんだ……」
「待って、言わないで」
彼女は相変わらず下を向いたまま、語調だけを少し強めて僕の言葉を遮った。
だが、それにくじけている場合でもない。
僕は息を一つして、再び口を開く。
「大事な……ことなんだ」
「いやよ、聞きたくない」
はっきりとした拒絶。
唇を真一文字にした彼女の真剣な顔を見ると、僕の胸は締め付けられるように感じる。
自分でも残酷なことをしようとしているのはわかっている。
それでも、それでも僕は言わなきゃならない。
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