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新月に黒猫は酔いしれる(絵本ストーリー応募作品原案)
魔女と黒猫は相棒だが、いつも一緒にいるわけではない。
魔女には魔女の付き合い、黒猫には黒猫の付き合いがあるのだ。
キーっとドアのあく音がして黒猫のノノノンは魔女のルーナを置いて家を出た。
いつもならぐっすり眠っている時間だが、この日は戸の開く音でルーナは目が覚めた。
ルーナはノノノンの行く先が気になってそーっと後をつけてみる。
猫の集まりがあることは知っていたが、どんなものかがひどく気になっていたのだ。
ルーナは姿消しの魔法をかけて距離を置きながらついていきます。
風上に立つようなへまはしません。
魔女の装束にしみこませた魔力の効果を高めるハーブのにおいに気づかれてしまいますから。
月の隠れる真っ暗な夜。
ノノノンは星明りだけを頼りに目的地に向かいます。
暗闇の中、足音だけで黒猫を追うのは大変です。
猫のように目がきくわけではないルーナがついていけたのが不思議です。
ノノノンがその場に到着したとき、すでに黒猫たちは踊り始めてました。
体を深いくの字に曲げては伸ばし、両手を高く振り上げては左右に振る。
尻尾も楽しそうに動いてます。
祭りか何かなのかと思って見ていると、後ろからオイと声をかけられました。
姿が見えないつもりでいたルーナは飛び上がりました。
黒猫たちに気を取られて魔法がとけてしまったようです。
ルーナはまだまだ未熟な自分が嫌になります。
「なに驚いてるんだ? 儀式に参加しないのか?」
声をかけてきた黒猫はアルムス、ノノノンの知り合いらしい。
ノノノンの後ろをついて歩くルーナをずっと見ていたのだという。
アルムスが言うにはこの集まりは祭りではなく、年に一度の儀式だそうです。
黒猫しかいないその儀式にルーナは興味津々です。
アルムスは魔女の飛び入り参加も気にしないようですが、魔女が参加することを他の黒猫たちは許してくれるのでしょうか?
できれば参加してみたいのですが、特にノノノンの反応が気になります。
そんなことを考え込んでいると、アルムスがルーナの顔を覗き込んでいました。
儀式に気を取られていたルーナは今の今まで気づきませんでしたが、覗いたアルムスの顔はとてつもなく大きくて、ルーナは驚きを隠せません。
ルーナは小柄な少女でしたが、それでも自分より大きな猫ははじめてみました。
化け猫のように大きなアルムスがすっかり怖くなってしまって、ルーナは頷くことしかできずにいます。
「なぁに、はじめてでも難しいことはない。ただ焚火の周りを楽しく踊って生け贄の魚たちを食すだけさ」
彼はルーナの手を引いて祭りの輪の中に飛び込んだ。
握られた手を見てルーナはようやく自分が黒猫になっていることに気が付きました。
アルムスが大きいのではなく自分が縮んだのだとルーナは気が付きました。
どうやって黒猫になったのかわからない。
どうやって戻るかもわからない。
だけど踊りの輪の中に入ったルーナはそんなことはどうでもよくなっていました。
焚き火から香るマタタビの香りに酔いしれ、おいしそうな魚のにおいにも心奪われる。
楽しそうな音楽に合わせてルーナは無我夢中で踊り続けました。
途中のノノノンと目が合った気がしましたが気にしません。
気が付くと朝、黒猫たちの姿はありません。
いつの間に戻ったのか家の近くの森の木陰で、ルーナは切り株にもたれて眠り込んでいました。
すでに黒猫の姿ではなく元の魔女のルーナです。
夢でも見たのかと思いましたが、どうやらそうではないようです。
一晩中踊りあかした疲労をルーナは確かに感じていました。
「今回だけですよ」
そう語りかけるノノノンの声が耳の中ではじけて消えた。
2023-02-21
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