第一章

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 嵩也が出勤し、別室で朝餉をとった後、手持ち無沙汰になった雪子は、邸の中をうろうろしはじめた。  平塚邸は和風邸宅で、母屋と離れで成り立っている。部屋数が多く、入り組んでいて、迷子になりそうな造りだった。  掃除をしている女中と出会ったので、「私にも何かお手伝いできることはないですか」と尋ねると、「若奥様のお手を煩わせるなんてとんでもない!」と、断られてしまった。  困ってしまい、今度は台所を探した。  平塚邸の台所は、昨夜のような宴席にも対応できるほど、広く、設備も充実していた。  半分は板床で、半分は土間になっている。近頃流行りの立式の台所で、板床部分には、配膳台や食器棚、置棚などが置かれている。土間の部分には、竈と、七輪台、瓦斯(ガス)式のストーブ、冷蔵庫があった。広い調理台は使いやすそうだ。流しには蛇口が付いている。水道が引かれているのだろう。 (素敵なお台所だわ)  紅茶党の藤島家にはなかった珈琲炒り器や珈琲挽きが目に入り、雪子は興味を引かれた。
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