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都会のビル群から住宅地になり、家もまばらになって畑から牧草地へ。
森や湖が広がり始めた頃、目的地の最寄駅に着いた。
そこからバスに乗ろうと思ったが、お屋敷の近くにバス停がないため、泣く泣くタクシーに乗ることにした。
なぜ世界的バイオリニストがこんな不便なところに住んでいるのか不思議だけれど、芸術家とはそんなものかもしれない。
そのお屋敷は森を抜けたところにあり、門を抜けてからもしばらくタクシーを走らせた。
この地方特有のどんよりとした、暗い青とねずみ色のグラデーションの空と、秋も深まり黄色くなってきている植栽と重なるように広がる芝生の間に、挟まるようにその屋敷は佇んでいる。
まるで世間を拒み、隔絶されているかのように。
タクシーの中でスマホを見てみると圏外になっている。
そりゃ住み込みを嫌がる人もいるはずだ。
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