作品名:性の解放

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作品名:性の解放

「ありがとうございました!」 溌溂とした声が店内に響く。 新崎零(しんざきれい)は一礼をしながら、花束を持った女性客を見送った。 ここはとある商店街にある至って普通の花屋。 眉目秀麗な彼が一人で切り盛りをしている。 良く客からカッコいいですねと言われる事が多いが、もうすぐ三十八歳でアラフォーだ。 美形に育ててくれた両親に感謝である。 元々花に興味があったので、三十歳の時に一念発起。 脱サラして今に至る。 まだまだ売上は芳しくないが、毎日楽しい時間を過ごせているのは何物にも代えがたい。 すると、左腕に付けているスマートウォッチの画面に何かの通知が文字で映った。 【今夜。空いていますか?】 その文字を見た零は、静かに笑みを浮かべる。 【ええ。空いていますよ】 慣れた手つきで返信を打つ。 【わかりました。よろしくお願いします】 簡単なやり取りを終えると、零は大きく伸びをした。 「今日は久し振りに、良い作品が作れそうだな」 そう言いながら、彼は店の奥の部屋をチラリと見つめるのだった。 そんな中、店の自動ドアが開く。 「いらっしゃいませ」 零の快活な声が店に響き、訪れた客に清々しい気持ちを抱かせるのだった。 そして、その日の夜。 店の奥の部屋がぼんやりとした暗い灯りを灯している。 「全く。まだ始まったばかりなのに、何だい、その厭らしい目つきは」 零の視線の先には、天井から吊るされた鎖に全裸のまま両手を縛られ、呼吸を荒げた状態の青年が映る。 真っ白な部屋は無地のキャンバスのようだ。 「あアアっ!」 若い男の快楽に溺れる嬌声が部屋中にこだましている。 彼の両胸の先端には機械の突起が装着されており、唸るような音を上げて強い刺激を与えているようだ。 彼の陰茎はすでに起立し、口元とそこからダラダラと情けなく液体を溢している。 零はゆっくりと青年の元に歩み寄る。 「キミは目隠しされるの、好きかい?」 「い、いや…。やめ…」 青年の力ない声に、零は彼の濡れた陰茎を握り何度か扱き上げる。 「あアアッ!」 鎖が暴れ、金属音が部屋中に響く。 「やめて欲しい? キミが望んだ事だろう? もっと刺激が欲しいくせに」 零は有無を言わさず、青年の目をアイマスクで塞ぐ。 そして、零は近くのテーブルの上に置いてあった筒状の機械のようなモノを手に取る。 スイッチを入れると、規則正しい動きの機械音が鳴り始める。 それをまるでクラシック音楽を聴かせるように青年の耳元で脈動させた。 それだけで青年の身体は捩れ、鼻息が荒れた。 さながらパブロフの犬のように。 「ホント。キミは変態だね。これから自分が何をされるのか、期待しちゃってるんだ」 零の言葉に、青年は静かに口元に笑みを浮かべた。 「フフッ。いいよ。キミが快感に溺れ壊れて行く様、僕に見せてよ」 そう言って、零は筒状の機械を冷たい粘度のある液体で濡らし、青年の張り詰めた陰茎に差し込む。 怪しい無機物の音が連弾のように部屋に鳴り響くと、青年の快楽によがる声も徐々に激しさを増して行く。 「アアッ! き、気持ち…」 弱々しい青年の声に、零はその首を掴む。 「聴こえない。何だって?」 「き、気持ちいいッ! も、もっと…シテ、下さい!」 欲のまま、本能のまま、青年は懇願する。 「いいね。キミ、やっぱり良いよ」 零は青年の頭を優しく撫でると同時に、機械のスイッチの強度を非情にも高めた。 絶叫にも似た快感によがり狂う声が響き渡る。 絶頂へと簡単へ推し進められていく。 「あ、も、もう…い、逝く…」 青年の腰が激しく揺れ、陰茎から白濁液が筒の合間から漏れ出た。 彼の鼠径部を汚し、白い華蜜が真っ白な床にボタボタと落ちて行く。 果てたにも関わらず、無機質な機械は青年の性感帯を弄ぶのを止めない。 強すぎる刺激に青年の声はさらに昂る。 「まだまだ、頑張れるよね?」 零は彼の耳元でそう呟く。 もう返答すら出来る余裕などない様子である。 身体の奥底から何もかも吐き出すような感覚に青年は襲われる。 ダラリと両足を投げ出し、鎖に両手を縛られて居なければ、彼は立って居る事すら出来ないのだ。 「今のキミは最高に美しいよ」 零は青年の髪を搔き乱し、そのまま青年の引き締まった尻の合間に指を充てた。 冷たい粘液が双丘の合間を滑って行く。 「い、いや…。そこ、は…」 「ここは初めてだったよね。キミは知る事になるよ。新しい世界をね」 零は青年の秘奥にゆっくりと指を淹れて行く。 知らない刺激に、彼の身体は震え、聴いたことのない声を発した。 それから青年はあらゆる性感帯を刺激させられ、吐精し続けた。 身体の奥底までも零の指で弄ばれる度に、何度も陰茎から液体をまき散らし続けた。 彼の意識がなくなるまで。 床一面があらゆる液体で汚れて居る。 鎖に繋がれたまま動かなくなった青年。 口元には(あぶく)が浮かんでいるが、少し笑って居るような顔をしている。 零は手をタオルで拭い、彼のアイマスクを外すと共に、鎖の戒めを解いた。 大きな音と共に、青年は真っ白の床に崩れ落ちた。 上気した青年の顔と裸体を零は静かに見つめる。 「…美しい」 そう言って、零は一度部屋を後にする。 しばらくして、彼は大量の花を持って戻って来た。 「綺麗だよ。あとは僕がしっかり仕上げてあげるからね」 零は動かない青年の周りを綺麗な花で彩って行く。 色とりどりの花達が、身体中を白く汚した青年を優しく包み込むように置かれていく。 「これで良いかな」 まるで絵画のように青年の周りを花が咲き誇っていた。 彼の美しく、性に塗れた裸体は彫刻作品のようにも見える。 零は静かにカメラのファインダーを覗き、シャッターを切った。 天井に備え付けられたカメラも使って、別アングルからもアプローチを試みる。 「うーん。もう少しココを変更してもよさそうだな」 すぐにパソコンでデータを確認しては、花の位置を変えたりと、細かい修正を施して行く。 何度か試行錯誤を繰り返し、ようやく納得のいく写真が撮れたようである。 「今回はとても良い作品が作れた。本当にありがとう」 その感謝の声は、今の青年の耳には届かない。 零はそのまま部屋を後にする。 「ゆっくりおやすみ」 そう言って、彼は重厚感のある部屋の扉を閉めるのだった。 次の日。 お店の自動ドアがゆっくりと開く。 「いらっしゃいませ」 零はいつも見せる快活な声と笑顔で客を迎えた。 「あの。彼女へ花のプレゼントをしたくて」 スーツ姿の若いサラリーマンがやって来た。 「プレゼント用ですね。畏まりました。予算とか何か、ご要望はございますか?」 「あ、いえ。特にはないので。お任せして良いですか?」 「良いですよ。お客様の気持ちが伝わる様、精一杯対応させて貰います」 零はニコリと笑って見せた。 男性も安心したのか、安堵の笑みを見せる。 それから手際よく零は花束を仕立て上げた。 「お待たせ致しました」 「うわあ。滅茶苦茶綺麗ですね」 零が用意したのは青い薔薇の花束だった。 「青の薔薇には夢が叶うと言う意味もありますので。今の御客様にはぴったりかと」 「ありがとうございます。お兄さんに任せて良かった」 「そう言って貰えると頑張った甲斐があります」 支払いを済ませ、スーツ姿の男性は軽やかな足取りで店を後にしようとした。 すると、 「あ、お客様。良かったら、これもどうぞ」 そう言って零は一輪の紫色の花を差し出した。 「コレは?」 「まだ世に出ていない新品種なんです。お客様の新しい門出を祝って。僕からのプレゼントです」 「そんな。随分気が早いですね♪ 新品種なんて、貰って良いんですか?」 「僕が交配して作った花なので」 「えっ? 凄い。コレ、お兄さんのなんですね」 「ええ、まあ」 「それじゃあ、ありがたく頂きます。また来ますね!」 「はい。では、お気を付けて」 零は深々と一礼をし、男性を見送るのだった。 「そう。新しい門出。貴方もきっと、美しい作品になり得る要素がある」 零は怪しい笑みを浮かべながら、店の奥のあの部屋を静かに見つめるのだった。
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