ホトケの阿部さん

　猛暑と連呼された長い夏がようやく終わり、待ちわびた秋が訪れた。

　阿部さんがいなくなって数ヶ月が過ぎようとしていたが、オフィス内で阿部さんの名前が出ることは殆どなかった。

　それなのに、阿部さんの不在を思い知らされることは多々あった。

　何故なら阿部さん一人いなくなっただけだというのに、ほとんど全員の業務量が増えたからだ。

　これまで阿部さん一人に、どれだけ多くのことを負担させてきたのかを痛感させられた。

　知らず知らずのうちに阿部さんに甘え、それが阿部さんをあそこまで追い詰めていたことも。

　ただ、松田課長は最初こそしおらしくしていたものの、今では次なる阿部さんを誰にしようかと躍起になって探している。

　一方で、上層部や他部署からは、阿部さんへの待遇に対しての訓戒はもちろんだが、阿部さんに対する非難の声も上がったそうだ。「業務の自己管理もできず、最後に大立ち回りをして突然退職するとは、責任感の欠如も甚だしいのではないか」というものだった。

　阿部さんのいなくなったオフィスで、私たちは冬を超え、やがて春を迎えた。

　そしてその後の阿部さんの動向を、意外な形で知ることとなる。