バスターミナル

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バスターミナル

雨が上がると六月の太陽が、あっという間に曇天を青空に変えた。バスターミナルの濡れた路面が、午後の太陽の光を反射して輝いている。見上げると向かいに建つスーパーの上に虹が出ていた。虹はいいことがある前兆だと母がいつも言っている。 美羽はこっそり下を向いてにっこりと笑いながら、バスの到着口に顔を戻す。アスファルトに太陽の光が反射して、キラキラしている。光をじっと見つめていたせいで、世界が全て光だけになった気がして、意識がぐらぐらした。 光の中で唐突に、ここから歩いてすぐの場所にある大谷地神社に行きたくなった。 突然思いついたことは大抵いいことに繋がる。これも母の受け売りだが、割と当たっていると思う。 美羽は一番前から数えて三番目に並んでいた列をあっさりと離れる。あと五分もしないでバスはやってくる。既に十分以上は待っていたけど、全く惜しくない。どうせこのまま自宅に帰っても誰もいない。フルタイムで働く母が駅前の職場からバスで帰って来るのは六時過ぎだ。テスト勉強のため午前授業たったので、いつもよりずっと早い帰宅。学校でクラスメート達とお弁当を食べたあと、ダラダラと駅まで歩き、地下鉄でバスターミナルに着いた頃はまだ二時だった。時間はたっぷりある。ちなみに勉強は今更する気はない。 スマートフォンで時間を確認する。二時二十二分だった。なんてことだろう。口元が勝手ににやけてしまう。 きっとこの思いつきは正しい。時刻がそれを証明している気がした。美羽にとってゾロ目は、良い結果が待っている前兆なのだ。今日はきっといいことが待っている。 バスターミナルの前の信号を小走りで渡り、あっという間に遊歩道まで駆けていく。  ふふふと勝手に声が出る。なんだか楽しくてたまらない。 実際にいいことがあったわけではない。でも大気の汚れを全部、雨が地表に落としてくれたようで、空は清々しいまでに青く、夏が近いのにそこまで暑いわけではなく、多分今日は、北海道における一年で一番過ごしやすい日なのだ。 ふふふ。
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