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彩佳からの報告を首を長くして待ちこがれていた宏子だが、何の連絡もないことにしびれを切らして、彼女をスマートフォンで呼び出した。挨拶もそこそこに進展状況を尋ねる。
「どうだった?」
一瞬、罪悪感に苛まれた彩佳であったが、いまさら真実を言うわけにもいかず、嘘八百を並べる。
「あの人、わりと若くも見えたけど、55歳だったよ。結婚していて、お孫さんもいたわ。」
宏子は、ガックリと肩を落とす。結婚しているといわれれば、どうにもならない。そもそも、さすがに55歳では交際対象にはならないだろう。
「いってても40代半ばと思ったわ。55歳には見えないわよ。こういうの年齢詐称っていうのかしら…」
いやいや、〔彼〕は何も騙してはいない。年齢不詳なだけである。宏子が勝手に思い違いをしていただけのことだ。結局、宏子の恋路は実ることなく夢と消えてしまった。
宏子が鉄道女子でなかったら、そもそも〔彼〕と出会うことすらなかったに違いない。こんな切ない思いをすることもなかったであろう。時として、運命は、残酷な試練を与えるものだ。その後、宏子は、しばらくの間は、〔彼〕の幻影が脳裏から離れないでいたが、引き続き1本早い電車に乗り、〔彼〕と顔を会わせないことで、徐々に徐々に気持ちの整理をつけていった。
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