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剣に炎の力を宿らせて、クーフの攻撃で隙だらけになった丸い魔物に剣を振り下ろす。剣が当たるか当たらないかの時点で、既に氷の魔物は炎の熱気に溶かされて、その場で水になっていた。水になった身体の中からは、恐らく食べられたのであろう獣の骨が、こぼれて辺りに散らばっていた。
「大丈夫か、クーフ!」
魔物を倒してすぐに背後の男に声をかければ、クーフはその場にしゃがみこんで、痛みに顔を歪めて頷いていた。
「ひとまずは……。ありがとう、ジュータ」
と、お礼を口にするが正直俺に礼を言っている場合ではないだろう。心配して俺がしゃがみ込む隣で、ミローナさんが走り寄っていた。
「ちょっと待ってて、クーフくん。今治療するわ」
さすが、補助系の魔法を使い慣れているミローナさんだ。俺と同様クーフのとなりにしゃがみ込むと、手早くヤツの腕に状態異常の解除魔法を発動する。するとたちまち腕の異様な冷気が消え去って腕の氷が砕け散った。その様子に俺もミローナさんもホッとするが、クーフは安心したような表情をしたのは一瞬だった。黒髪の下でヤツは妙に暗い顔色に変わっていて、俺は思わず心のなかで首を傾げていた。しかしそれに気がつかないミローナさんは、クーフに向き直ってその腕を両手で押さえていた。
「これでひとまず、凍傷にはならないわ」
そう言ってまたしても眩しい笑顔を見せるミローナさんは、やはり美しい……!
「……ありがとうございます」
美女に腕を取られ、その至近距離で美しく微笑まれているのに、やはりクーフのヤツは表情が暗い。それに気がついたミローナさんがあっと声をあげ、両手で男の腕をさすり始めた。
「ごめん、氷は溶かしたけど、治癒魔法まだだったね。痛みもすぐ引くわ」
金髪の美女は両手に力を込めると、そこから金色の光をこぼし始めた。治癒魔法を発動した証拠だ。溢れた光はクーフの腕に吸い込まれるように消えて行き、逆にヤツの腕がうっすらと光った。それを確認して、ミローナさんはクーフの顔の真下でヤツに上目遣いをして、首を傾げて見せた。
「どう、痛みは引いた?」
しゃがんだまま見つめ合う今の二人の顔の位置は、それこそ少し首を下げれば、クーフのヤツキスでもできそうな位置だ。う、羨ましすぎる……! しかしそんな魅惑的な距離にいて、男の表情は相変わらずだ。
「……はい……。ありがとうございます……」
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