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閉ざされた最上階
塔を登り続けて時刻はもう昼を回っていた。塔のいたる所に魔物が居て、なかなか安心して休めるところはない。それでも窓近くで日差しが入り、狭い個室のような部屋を見つけることが出来て、俺達はそこで昼食を取ることが出来た。小さな部屋だが、どうやら個人の倉庫のような場所で、本棚がずらりと並び、壊れた棚から物や本が所々落ちて散乱していた。それでも椅子代わりになるような丈夫な箱や積まれた本があり、俺達はそこにそれぞれ腰掛けて、持参した食料で腹を満たしていた。
「随分上まで来たわねぇ。いい眺め」
そう言って窓の外を眺めるのは金髪の美女、ミローナさん。ガラスも砕けてほぼ無いような状態の窓からは、容赦なく冷たい風が吹き付けてくる。それでも風の直接当たらない壁よりに座っていれば、いささか寒さもマシになるってもんだ。
彼女の言葉につられて、俺も水筒の茶を飲みながら窓に歩み寄る。視界に入るのは真っ白な山々に、遠くに見えるきれいなレンガ作りの街並み。その先に青い海がかすかに見えた。
「あそこがズスタだね」
俺の隣で同じように窓から外を見るクーフがポツリ呟けば、俺が頷きミローナさんが座ったまま上体だけを前かがみにして微笑む。
「綺麗でしょー。ズスタって貿易も盛んだけど結構高い所からの見晴らしも良くて、観光に来る人も多いのよ。クーフくんって何でもこの辺の人じゃないんでしょ? ズスタの町はどう? 気に入った?」
その問いかけに、クーフは薄っすらと笑って頷いていた。
「ええ、いい人が多くて平和で……割と気に入りました」
「そりゃ良かった」
「良かったわ」
思わず俺とミローナさんの声がかぶれば、それに気がついて俺たちは顔を見合わせ一度だけ笑った。
「ところで、クーフくんってどうしてこのズスタ軍に来たの? なんか強いから、司令官に軍を助けてくれって、客人として招かれたって噂は聞いてるんだけど」
早速クーフ本人について質問が来れば、クーフのやつニコリと微笑んで短い返事だ。
「色々ありまして……。それより、後もう少しで最上階になりそうですが、どうしますか?」
思いがけない言葉に、ミローナさんも俺も思わずやつの顔を見て目を丸くしていた。
「え、そうなの?」
「後もう少しって、どのくらいだよ?」
「多分、あと二階ってところかな。……行ってみるかい?」
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