#1 さよならは突然に

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#1 さよならは突然に

突然の別れだった。 小学校5年、年度末の春休みのある晩。同級生で親友の西沢千尋(にしざわ・ちひろ)が引っ越しをすることになったと挨拶に来た。 東京の中野から母親の実家がある大阪へ。子どもたちにはあまりに急なことだったが、大人たちの間で話は着実に進んでいたのだ。 千尋の父が年初めに亡くなっていた、しばらくは母子家庭でやっていたが、行く末を心配した母方の家族に説得され、実家へ戻ることになったのだという。 その晩は千尋の兄・悠希(ゆうき)も一緒だった。 石館天音(いしだて・あまね)と千尋はお互いの家を行き来して遊んでいたので、何度も会っていた。2歳差の千尋の兄は天音からすれば大人でかっこよく、天音は憧れを抱き、いつも会えるのが楽しみだった。 「急にごめんね」 真摯に謝る姿に天音は涙ぐんだ、唐突な別れを実感できた。その時の声は耳に今でも残っている。 最後に泣きじゃくる千尋と抱きしめあって別れた、本当にこんなに突然引っ越しすることがあるのだと驚いた。 二人はスマートフォンを持っていた、日頃からやり取りはあり、引っ越し後も繋がり続け、日常の出来事の報告は続いていた。 ☆ そして、7年。 【ええ! 星林、受かったんだ!】 千尋(ちひろ)から天音(あまね)宛に通信アプリのメッセージが来た。それは返信だ、先ほど合格通知の写真を付けて報告をしてあった。 横浜の山手にある星林栄和学院の大学だ。小学校からの一貫教育を売りにしている学校法人で、外部受験も受け入れているが、7割は内部進学のため募集人数は絞られる。超難関校ではないが倍率はそれなりに高い、そこへ天音は合格できたのだ。 【すごいじゃん!】 【えへへ、頑張りました!】 ガッツポーズをする絵文字と共に返信する。
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