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ドアを開けると、押しこめられていた空気が爆発した。文字の羅列で埋められた紙が宙を舞い、ばさばさと音を立てる。
小さな文学部室に嵐が巻き起こる。
僕はあわてて中に入り、ドアを閉めた。
「やれやれ。また開けっ放しにして」
僕は愚痴りながら、窓に手を伸ばす。
次に床へと視線を落とし、嘆息する。
『好きです。つきあってください』
『あなたのことが気になって一睡もできません。これが恋と知ったのは、つい最近のこと。今じゃすっかり睡眠不足です。責任をとってください』
『恋路の闇を歩いている私を救ってくれるのは、あなただけなのです。どうかこの思いを受けとってください』
目に入ってくる文章を読みながら、僕は虚しくなった。
ばらばらになった恋の不発弾の数々。渡されなかったラブレターたちを拾いあげ、僕は適当に机に並べていく。
どれもこれもわが敬愛せし文学部部長・菊池美穂先輩の所為である。ただ、これらは一度も相手に届けられたことはない。たぶん。
「ラブレターを書くと、恋をしている、って気分になるじゃない」
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