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以前、相手に渡さないのかと聞いたとき、先輩は意気揚々とこう答えた。どういう理屈なのかは理解できなかった。けれども、疑似恋愛のようなものだろう、と僕は勝手に解釈している。
一つ確実に言えることがあるとしたら、僕に宛てられたものではないことだ。教室の隅っこで本を読む日陰者を、そもそも先輩は恋愛対象として見ていないだろうし、第一、本命の相手にラブレターの感想を求めやしないはず。
僕は小説の考察や議論などをしたくて文学部に入部したというのに、最近じゃ、恋文の感想ばかり述べている気がする。例を挙げると、単調だの、難解だの、誤字脱字だらけだの、と枚挙にいとまがない。
そんなことを考えながら、ラブレターを並べていると、ノックの音とともにドアが開く。
「やっほー、お疲れ。佐藤くん」
僕の返事も待たず、活気ある声を響かせ、先輩が入ってきた。
三つ編みおさげにメガネ、という文学少女のテンプレートみたいな見た目をしている先輩。けれど、その性格は少年漫画の主人公みたいに元気いっぱいだ。
「お疲れさまです」
ぺこりと僕は軽く頭を下げる。
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