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本当なら、もっと義姉の話が聞きたい。だが、馬車はもうじき公爵邸に着く頃だろう。残念に思っていると、じっとアンジェを見つめる黒い瞳に気付いた。観察するような、見極めるような視線に正直に眉を顰める。
すると、ジルベルトはにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「……危なっかしくはある。が、社交界に向かないとは思わない」
「はい?」
「社交界でも市井でも関係ない。どこでも生きていけそうだ、お前は」
突然ぞんざいになった言葉遣いは馬鹿にしたように聞こえ、アンジェの神経がぴりりと尖る。
つまりアンジェが、図々しいと言いたいのだろうか?
「どういう意味でしょう?」
「なぜ怒る? 褒めてるんだが」
まったく褒めてるようには聞こえない。
不機嫌に沈黙するアンジェにジルベルトは肩を竦める。そして前屈みになりアンジェの足元に片手を伸ばした。その時初めて、自分が扇を落としていたことに気が付いた。
「ほら」
「……ありがとうございます」
憮然としたまま、差し出された扇を受け取る。直後、突然だった。大きな手に手首を掴まれ、軽い力で引き寄せられた。
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