皇弟の思惑と貴族令嬢の計算

8/9
1244人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
 本当なら、もっと義姉の話が聞きたい。だが、馬車はもうじき公爵邸に着く頃だろう。残念に思っていると、じっとアンジェを見つめる黒い瞳に気付いた。観察するような、見極めるような視線に正直に眉を顰める。  すると、ジルベルトはにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。 「……危なっかしくはある。が、社交界に向かないとは思わない」 「はい?」 「社交界でも市井でも関係ない。どこでも生きていけそうだ、お前は」  突然ぞんざいになった言葉遣いは馬鹿にしたように聞こえ、アンジェの神経がぴりりと尖る。  つまりアンジェが、図々しいと言いたいのだろうか? 「どういう意味でしょう?」 「なぜ怒る? 褒めてるんだが」  まったく褒めてるようには聞こえない。  不機嫌に沈黙するアンジェにジルベルトは肩を竦める。そして前屈みになりアンジェの足元に片手を伸ばした。その時初めて、自分が扇を落としていたことに気が付いた。 「ほら」 「……ありがとうございます」  憮然としたまま、差し出された扇を受け取る。直後、突然だった。大きな手に手首を掴まれ、軽い力で引き寄せられた。  
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!