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『お母さんをとらないで』
里香は孝介にそう言った。ああ、そんな心配は無用だったのに。
何度でも、言葉にして伝えるべきだった。あなたが誰より大切だと。そして、私はどこにもいかないと伝えられていたらーー。
そうすればきっと、彼女があの日、たった一人で樹海に足を運ぶことはなかった。
後悔に胸を締め付けられる。
愛娘と同じ場所に行きたかった。
けれど彼女がそれを許すはずはない。自ら命を絶てば、空の上で里香と再び会うことは叶わなくなる。そんな気がした。
辛い日々の中、復興へと歩む人の姿が彼女を励ましていた。絶望を味わった人がたくさんいる。それでも懸命に生きる人々が。
泣きたいのは自分だけではないと、気持ちを奮い立たせてきた。
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