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「また浮気? 懲りないね。あなたの旦那も」
金曜の午後。
スマホから聞こえてくる友人、敏江の声をBGMに、柚子は洗濯物を畳んでいた。
2月にしては温かな日差しが南向きの大きな窓から差し込んでいる。
この3LDKのマンションは駅直結の築浅で、地上36階地下3階建て。柚子の自宅は20階に位置している。
東京郊外に位置するこの街で彼女は少女時代を過ごした。50代を迎え、次に住む土地を終の住処にしようと、またここに戻ってきたのだ。
元々は新築での購入を検討していたマンションだったが、迷っているうちに時が経ち、築2年のときに手頃な部屋が売りに出たので飛びついた。
新築時よりも割安で手に入り、却って良かった。
年月が経つと市場価値が下がるところは人間も一緒ね、と白髪の増えてきた柚子は思う。
「うん。誰か女の人がいるって感じはしてる。ふふ。もうね、彼の浮気には慣れちゃってるの。あの人のは病気だから」
「前から思ってたけどね。柚子は旦那に対して理解がありすぎ。それだから、つけあがるのよ!」
確かにそうなのかもしれない。けれど、もう、夫の浮気に対しては怒る気も無くしてしまった。27歳のとき結婚して、もう25年になる。私も歳をとるはずだ、と柚子はひとり苦笑した。
忘れもしない。最初に夫の浮気が発覚したのは30歳の頃だった。
見て見ぬフリをしようとしたが耐えられず、浮気相手と別れてくれと泣いて懇願したものだ。しかし彼の言い分はこうだった。
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