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何?この気持ち…
「あ〜面倒臭い、こんな気持ちの良い昼間に勉強とか最悪… 」
コクっと半分船を漕ぎながらブツブツと呟くように、ひとり文句を言った。
窓のカーテンを揺らす、爽やか過ぎる風に誘われる眠気と必死に闘いながら机の上のパソコンを開く。
僕の名前は望月葵葉、この春から大学受験を控えた高校三年生になったばかり。少し前に返ってきた模試の結果は志望大学D判定で、母親が塾に行けと煩い。
普段から家を空ける事が殆どで、僕の事は雷太さんに任せきりのくせに、何だよ、と思う。
親は有名大学に僕を入れたいみたいだけど、僕は何処かに入れれば良いと思っている程度。
だって難関大学なんて逆立ちしたって到底無理、受験だけは誰でも受ける事が出来るからね、面倒くさいから母親には言い返さずに母親の言う大学を目指しているフリをしている。
塾に行くのも面倒だし、仕方ない、オンライン塾ならと承諾した。
「葵葉、眠気覚ましのコーヒーと冷たいおしぼり、それにブドウ糖90%のラムネ」
コンコンと部屋のドアをノックして入って来たのは、住み込みで働いてくれているハウスキーパー、剛力雷太さん。
見た目も名前の通り強そうで、端正な顔立ちはさぞかしモテるだろうと思いきや、目つきの悪さと怖さに誰も近付いて来ない。
そんな風貌だけど、炊事洗濯掃除と家事能力が滅茶苦茶に高い。
ハウスキーパーと言っても、僕が五歳の時から一緒、雷太さんは高校中退で父親に連れられてこの家に来た時は、結構なヤンチャ者だったらしい。
今ではそんな影は、ほんの少し残す程度で、家を空けがちな両親に代わって僕の事を色々としてくれる。
だからもう、僕にとっては家族同然。
「流石、雷太さん、ありがとう」
僕が眠気と闘っているのを分かっていた。
「葵葉も大変だな、『望月』の家の跡を継がなきゃならないからな」
眉を下げて気の毒そうな顔で雷太さんが見つめる。
「別に継ぐ必要もないと思うんだよね、お祖父ちゃんが開いていた洋食屋さんを父さんの代で大きくしたんだから、それで終わりでいいんじゃない?って思う」
お祖父ちゃんが小さな洋食屋さんを開いていて、全く料理に才が無かった父親が経営に回った所、あっと言う間に都内に七店舗も店を構える大きな会社となって、僕はいつの間にか「お坊ちゃま」。
「まぁそんな事言うなよ… ほら、始まる時間だぞ」
雷太さんに促されて机に向かい頬杖を突きながら、マウスをクリックしてオンライン塾に入り込む。
ふっと笑いながら雷太さんは部屋を出て行った。
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