第一次上田合戦

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「誰か……! 誰か、生きている者はいるか——」 ——男の声が響いて来た。 イナは思わず顔を上げると、声のする方へ振り向いた。 見ると遠くの方で、馬に乗った一人の青年が 生きている者が残っていないかを探して回っているようだった。 「っ……!」 思わず、イナは立ち上がっていた。 先ほどまで、このまま死んでしまってもいいのではないかと考えていたはずだったが 反射的に身体が動き、自分の存在を知らせようと足が動き出していた。 「ここ……! ここに、居ます……! 私っ……生きてます……!!」 必死で声を出し、青年の居る方へ駆けていくと、 それに気づいた青年がこちらへ視線を向けた。 「……!女の子……!?」 目を見開き、馬から降りて近づいて来た青年は よく見ると、イナよりも少しだけ歳上に見えた。 まだ少年から大人になったばかりくらいに見えるその青年は、柔らかい声でイナに尋ねた。 「大丈夫……?」 鼻筋の通った、整った顔立ちの青年は 透き通るような瞳でイナの顔を覗き込んできた。 イナは、家族以外の異性から吐息がかかる距離まで近づかれたことに戸惑い、思わず頬を染めて俯いた。 だが俯くと同時に、青年が身に付けていた甲冑の紋様が目に入り、息を呑んだ。 この紋様——父上が戦っていた敵兵のものと同じ。 じゃあ、この人は……真田の……? 「君のような若い女の子が、どうして戦場にいるの? どこから来たの?」 青年が優しい口調で言うと、イナはハッと息を止めた。 私が、真田家と戦っていた家の子だと知られたらどうなるだろう? きっと父上は、真田の人を大勢殺した。 ここに倒れている人達の中にも、父上に討たれた人がいることだろう。 この人の大切な仲間も、父上が殺したかもしれない。 そんなことがこの人に知られたら…… 私は殺されてしまうかもしれない—— ずっと黙り込んでいるイナを心配した青年は、再び口を開いた。 「家まで送るよ。 君の名前と、家のある方角を教えてくれるかな?」 青年の問い掛けに、ビクッ、と肩を揺らすイナ。 何か……何か答えなくちゃ……! 死にたくない……、殺されたくない……! 「——私は……イナ。 家は……戦で焼けてしまいました。 だから……帰る場所は——ありません」
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