Episode.08

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Episode.08

      2 「三神峯くん、今週――明日と明後日はお休みにしよう。ゆっくり休んで。体調も思わしくないんだろう?」 「今週は我々がなんとかするから、研究のことは考えなくて大丈夫だよ」  病院から戻ると、大野田と次長である鹿野から別室に呼ばれて気まずそうにそれだけを伝えられた。あんなことがあった後なのだから通常通り業務に戻ることは難しいだろうとは思っていたが、面と向かって言われると全身に重くのしかかってくるものだ。これまで必死に携わってきたのにこんなものなのか。三神峯は何も返す気力はなく、ただただ頷くことしかできなかった。  昼を過ぎたオフィスは綺麗に片付けられており、血が付着した床はタオルで隠されていた。昼休憩に出ているのか研究室にでもいるのか中田の姿はなく、オフィスに残っている社員もちらちらと三神峯を気まずそうに見ている。 (せめてタスク状況の整理だけしていこう。……薬剤評価のデータ、どうなってるのか……)  三神峯は自分の席に戻るとパソコンのスリープ機能を解除し、共有フォルダとタスク管理表を開いた。どうか何かひとつでもデータが残っていてほしい。せめて、報告書としてまとめたデータが残っていれば。縋るような思いで薬剤評価のフォルダを開いたが、報告書も含め、想像通り入っていたはずのデータが全て消えていた。 (……そんなに俺のことが気に食わないのかな。まあ、そういうことか……)
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