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劇場の階段を降りながら、買ったパンフレットの表紙をそっと撫でる。
「で、わざわざパスポートまでとって、ロシアに来て久しぶりに見たバレーはどうだった?」
「バレーじゃなくて、バレエだよ」
相変わらず昔から芸術には全く興味のない彼は、「へーへー」と適当に返事をしてまた欠伸をこぼす。
「……うん、やっぱり美しかった」
「美しかった? 妙な言い方だな。俺にはその感性が分からんよ」
肩を竦めてスタスタと階段をおりていく背中に苦笑いをうかべた。
振り返って劇場を見上げる。
赤い絨毯が張られた大階段、豪華なシャンデリアが吊られたロビーに、三階建ての客席と彫刻品のような柱に支えられた舞台。
おとぎ話のようなその世界で紡がれるのはおとぎ話のお話。
幕が開けば宝箱から宝石が溢れ出す。
あそこは、この世の全ての美しいものを詰め込んだ宝石箱だ。
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