(20)相手が受け入れない執着はゴミでしかない

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 嫌がらせのメールから一週間も経つと、想像通り私への興味よりも、メールを送信したらしい榊さんへの処遇の方に関心が高まって、私はなんとか日常をやり過ごしている。  もちろんまだメールの内容を鵜呑みにして、私のことをわざわざ見にくる他部署の社員は居たけれど、清永さんを中心に、同僚が防波堤になってくれるおかげでそこまで苦労はない。 「飯嶋さん、今回は随分災難だったね」  突然声を掛けられて振り返ると、気遣わしげにお疲れ様と笑顔を浮かべる営業の宮野さんが立っていた。  今日は清永さんが休みだから心強い味方が居ないし、一人で対処しなきゃいけないのが憂鬱だ。 「……宮野さん、仕事の件ならメールでお願いしてますよね」 「相変わらず冷たいなあ。所詮デブキャラのお笑い担当のクセに」 「なんの話ですか」 「いや、よく化けたって話ですよ」  宮野さんは嘲笑してから清永さんの椅子に腰掛けると、仕事中にも拘らずデスクに肘をついて私に向かって意味深な表情で笑い掛ける。 「ちっさい頃からデブで、笑いを取るためならお腹も出したりしたって聞いたよ。女が腹出すとか、必死じゃん」 「どう言う意味ですか」 「ねえ飯嶋さん。吉川春人、久住明日香、この辺りの名前に聞き覚えないですか」  楽しげに笑う宮野さんに、私は記憶を巡らせて言われた名前の人物を思い描く。それは小学校からの同級生で、私をよく揶揄って笑いものにしてた中心核の二人だ。  どう答えるべきなのか、返す言葉に迷って逡巡していると、宮野さんは聞きもしていないのに饒舌に話し始める。 「たまたまなんだよね。大学のサークルの集まりがあって、アイツらと再会して何気なく貴方の話になって。そしたら面白い写真やエピソードをたくさん聞かされたんだよね」 「だからどうしたんですか」 「いや、元々目も当てられないブタなのに、よくそこまで強気で居られるなって、感心してるんだよ」 「そうですか。どうも」  要領を得ない話題に、まともに取り合うのがバカらしくなって仕事を再開すると、突然腕を掴まれて宮野さんに抱き付くような姿勢になってしまう。 「ちょっと、困るよ飯嶋さん」 「はぁあ?」  咄嗟に声を上げると、事態に気付いた周りの社員が、なにをしてるのかとデスクに集まってくる。
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