理想の相手

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「どうして今、そんなことを告白してくれたんだい?」 「私達、これから婚姻届けを出すでしょう?」 「ああ、そうだね」 「悪魔には悪魔の決まりごとがあるのよ。人間と書面を介して契約する時には、きちんと自分の身を明らかにしないといけないの。結婚というのは契約でしょう? だから、黙っているわけにはいかなかったの」 「そうなんだね」 「本来、悪魔というのはあの手この手で人間をだまして契約に持ち込むものなんだけれど、私はあなたに嘘をつきたくないの。だって、愛しているから……」 「由岐……君みたいな子が悪魔だなんて、やっぱり信じられないよ」 「信じて……私は悪魔なの。本当の姿を見せたら、あなたはきっと私を嫌いになるわ」 「嫌いに何てならないさ。でも、いくつか気になることを聞いてもいい?」 「聞きたいことならわかるわ。私の親族でしょう? あれはみんな泥人形なの」 「そんなこと気にしないさ。親戚づきあいというのは苦手でね。それをしなくて良いとなると、それに越したことはないんだから」 「じゃあ、お友達かしら? あれも泥人形よ。急にお友達がたくさん出てきたから、驚いたんじゃない?」 「確かに今まで会わせて貰ったこともなかったから驚いたけれど、それも特に問題ではないさ。君には君の付き合いがある。それは理解しているから。それよりも式にかかったお金だよ。君が悪魔だというなら、あのお金はやはり何か悪いことをしたのかい?」 「悪魔だから、まっとうに稼いだお金でないのは事実よ。でも、だからと言って、後で何か厄介なことに巻き込まれる心配はないわ。悪魔の力は伊達じゃないのよ」 「それなら一安心してよいのかな……」  少なくとも、金銭が理由で彼女との新生活が台無しになる可能性はなさそうなので、僕は内心で胸をなでおろした。 「良かったよ、君という素敵な人を失うような心配がなさそうで」 「私なんてちっとも素敵じゃないわ。だって、あなたと契約した後、お願い事を三つ叶えてしまったら、あなたの死後、魂は私のものになってしまうのよ」  瞳を潤ませる彼女の髪を僕はそっと撫でた。 「馬鹿だなぁ、由岐。僕は君と結婚すると決めた日から、魂を捧げるつもりでいるんだよ。だから何も心配することはない。遠慮なく僕の魂を持って行ってけばいいさ」 「ああ、あなた……」 「愛してるよ、由岐。君のために、僕は変わるからね」 「いいえ、あなたは今のままでいいのよ。そのままのあなたが好き。変わる必要なんてないわ」 「由岐……」 「あなた……」  僕と彼女はそっと口づけを交わした。  彼女の唇の柔らかさを感じながら、僕は考えた。  なんてったって悪魔だ。きっと堕落した人間が好きなのだ。どうせ死ぬまで……いや、死んでからも離れられないのなら、彼女好みの男になろう。飛び切り堕落した男に。  それは僕にとってあまりに簡単なことだった。これからきっと楽しい人生になる。  由岐こそまさに僕の理想の結婚相手だ。
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