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蕾が咲く頃に
「バイバーイ」
「バイバイ、また明日」
友達と別れ、車の行き交う大通りから比較的人通りの少ない通りに入る。しばらくまっすぐ歩いて、突き当たりを曲がれば、私の家の前の通りだ。
今日はおやつに何を食べようか、悩みながら突き当たりを曲がると、私の家の近くに男女の集団が屯っているのが目に入った。
スクールブレザーを気崩し、髪の隙間からピアスを覗かせる高校生の集団。その中心にいるのは、隣に住んでいる怜央くんだ。今日も男の子達と綺麗なお姉さま方と一緒に、玄関先で話をしている。
「お、優衣じゃん」
背景に溶け込むように家に入ろうとした私をわざわざ呼び止めた彼は、振り返った私に手を振ることもせず、微かに口角を上げた。
「今帰り?」
「うん」
「そ、おかえり。いつも一緒の子は?」
「これから塾なんだって」
怜央くんの女友達の前で、あってもなくても困らないような何気ない会話を重ねる。私はこの瞬間がとてつもなく苦手だ。
怜央くんは多分気付いていないだろうが、話している時、怜央くんの視界の外でお姉さま方が「早く消えろ」と言わんばかりに私を睨む。
話しかけてきたのは怜央くんだし、私は悪くないと思うのだが、歳上の人の殺意の込められた視線が怖くて毎回身震いしてしまう。
空気が読めないのか、敢えて空気を読んでいないのかは分からないが、怜央くんは女の子達の前でも当たり前のように話しかけてくれる。
それがちょっと、ほんの少し嬉しかったりもする。女の子達が怖いのには変わりないけれど。
「へー。なんて名前の子だったっけ?」
「花音だよ、花音」
「ああ、のんちゃんか」
「そうそ、」
「ねえ怜央、愛花寒い〜。早く中入れて?」
私の言葉を遮って、一人の女の子が猫撫で声で怜央くんの腕に自分の腕を絡め、身体を寄せる。
「まだ聖来てないだろ」
「遅すぎだもん、もう待てないよ〜。早く早く。このままじゃ愛花風邪引いちゃうよ?」
上目遣いで擦り寄るその仕草は、さっき背筋が凍るような視線を送っていた彼女とは別人みたいだ。
「仕方ねぇな。玄関までだぞ」
「わーい、怜央大好き」
ふんわりと愛の言葉を呟き、腕の延長線から指を絡める。艶っぽい瞳と目が合えば、見せつけるように微笑まれた。
──やっぱり私、この人達が苦手だ。
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