わたしのお迎えで

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 仕事が終わり、さあ帰ろうと車に乗る。わたしの車は軽四だ。いつも同じ車種である。  一代目は成人した時に、親から贈られた。二代目は結婚した時に、一部親にお金を負担してもらって購入した。今乗っている三代目は、全額自分で支払った。    冬は日が暮れるのが早い。業務終了時には、駐車場は暗くなっていた。エンジンをかけた時、いつになくしんみりとした気分になったのは、虫の知らせだったのかもしれない。  わたしは携帯を持っていても、あまり見ない。なので、着信があっても長時間気づかず放置していることが多い。  しかしその日に限り、まるで何かに導かれるようにスマホの電源を入れ、着歴を調べた。その間、エンジンがかかった車の中では、懐メロのカバーCDが流れ続けていた。  弟から、着信がある。  簡易留守録が入っているので、首を傾げる。着信の時刻は、業務真っ最中の15時だ。弟も仕事中のはずだろうに。  とりあえず、メッセージを聞いた。  「母さん、車手放すって」  もしもし、も、久しぶり、も何もなく、弟はいきなり用件を入れていた。  呆然とした。  かけなおして、と付け加えらえていたので、すぐにリダイヤルした。  三回コールの後、「はいもしもし」と、とぼけた声で弟が出た。多分、仕事中だったのだろう。がやがやと人が喋る物音が背景に満ちていた。  ちょいごめん、場所うつるわ、と言って、しばらくしてから静かな場所で「おう」と、弟が再び喋り始めた。
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