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目的
こんなことは終わりにしなきゃ、と思った。
だから、最後にもう一度だけ。
はぁはぁ、と息を切らせて登る。日頃の運動不足を後悔したが、もう遅い。
むしろ今まさに運動しているんだ、前進だ、と自分に言い聞かせる。
山はいい。特に早朝の朝は。人の声がしなくて、鳥のさえずりと、自分が地面を踏みしめる音と、木々が揺れる音だけ。これだけでも地上の喧噪から離れられるので来たかいがあったが、目的のものはこの上にある。
両脇にあった木々が途切れ、原っぱが広がる。
階段はもう少し続き、木でできた展望台につながっている。だが目的はそれではなかった。右手に目をやると、それはあった。
蝶子は「ふう」と声に出した。
目的のものまでゆっくり歩く。
気持ちが高ぶっているのがわかる。
それは、ブランコだった。
子供の頃はもっと小さい子供向けだった。しかし何年か前、町おこしの名目で撤去され、新しく大きなブランコが設置されたのだ。
「インスタ映えする」と話題になり、なんの変哲もないこの場所はそこそこ有名になった。
「この山と景色の良さは地元の私達が一番よく知っているんだからね」なんて、蝶子は誰にとも知れず対抗意識を燃やしていたが、興味はあった。
あのブランコに乗ったら、どんな気持ちになるんだろう。
そしてある日、人気がないだろう時間帯を狙って、山に登って、ブランコを漕いだ。
その時のことは今も鮮明に覚えている。
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